研究実績の概要 |
わが国では高齢化に伴い心不全患者の増加が社会問題となっている。最近の研究により左室駆出率の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction;HFpEF)が増加傾向にあり、心不全の約半数を占めることが明らかにされた。HFpEFでは左室収縮能が保持されているが拡張能が障害されており、高齢者に多く、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの合併が多い。病理組織学的には心筋肥大、線維化、慢性炎症や血管内皮障害がみられ、様々な細胞が病態形成に関与するとされているが、いまだ不明である。また治療としては、一般的な心不全薬であるベータ遮断薬やレニンアンギオテンシン系阻害薬などは無効であり、現在予後を改善できる根治的治療法はなく、新しい治療の開発が真に求められている。一方、我々はこれまでに、心筋特異的な3つの転写因子(Gata4, Mef2c, Tbx5)導入により、線維芽細胞の一部が心筋細胞に直接リプログラミング(形質転換)することを世界で初めて発見した。また心筋梗塞モデルマウスに対する心筋リプログラミングでは、心機能が改善し、梗塞巣が縮小することを報告している(Miyamoto et al, Cell Stem Cell, 2018)。我々はそのメカニズムとして、心筋リプログラミングでは線維芽細胞からのECMやサイトカイン産生が減少し、線維化が抑制されることを見出しているため将来的にHFpEFへの応用が期待できる。そこで本研究ではHFpEFモデルマウスを作製して、HFpEFの病態解明を目指す。さらに心筋リプログラミングの抗線維化作用などを検証し、心筋リプログラミングによる新しいHFpEF治療開発を目指す。これまでにL-NAME(NOS阻害薬)とHigh Fat Diet(HFD)を与えてHFpEFモデルを作製した。心エコー、カテーテル、さらに遺伝子検査などからHFpEFによる心不全状態を確認し、HFpEFモデルの作成に成功した。
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