超初期段階から引き返す膵発がん予防戦略の探求

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 21K19480
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 妹尾 浩 京都大学, 医学研究科, 教授 (90335266)
• 研究期間 (年度): 2021-07-09 – 2024-03-31
• キーワード: 膵がん

研究実績の概要

膵がんは罹患数と死亡数が近似する極めて治療成績不良ながんである。しかしながら、早期に発見され、外科的切除が可能となった膵がんの予後は、そのなかにあってまだしも良好である。そのため、膵がんが発生する超初期段階の解析と、がんへの進行を食い止める方策は重要である。多くの先行研究および独自の検討により、膵発がんの超初期段階では腺房導管異形成（acinar-to-ductal metaplasia: ADM）とKras変異の併存が必要なことが示されている。ADMは炎症など微小環境の変化によって腺房細胞が脱分化した化生性変化であり、腺房細胞に再分化できるユニークな可塑性を持つ。本研究では、膵がんの予防、早期発見、早期治療に結びつく方策を探るため、ADMに着目し、以下の検討を行った。
(1) Dclk1陽性ADM細胞からの細胞系譜解析が可能なDclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+マウス、Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+; Pdx1-Flp; KrasFSF-G12D/+マウスを作出した。さらにその腹壁にイメージング・ウインドウを設置し、膵炎によりADMが生じる過程を二光子顕微鏡で経時的に観察した。
(2) Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+マウスにおけるADMの形成過程で、腺房・ADM細胞をDclk1をマーカーとして収集し、ADM細胞に生じるシグナル変化をアレイ解析した。そのうえで、主要なパスウェイの活性化について、免疫染色を併用して検討した。
これらの検討により、次年度以降の検討に資する基盤を形成するとともに、年度内にADMへの脱分化に必要なシグナルの意義を検証することができた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

膵がんは罹患数と死亡数が近似する極めて治療成績不良ながんである。そこで、膵がんが発生する超初期段階の解析と、がんへの進行を食い止める方策を樹立するために、本研究ではADMに着目し、マテリアルとして用いることにした。
令和3年度には、ADMの可視化解析、細胞系譜解析を可能にするモデルの構築、ADMにおける活性化シグナルの抽出を目標として設定していた。概要に記載の如く、おおむねその目標を達成したため、「おおむね順調に進展している」と評価した。

今後の研究の推進方策

上記結果に基づき、今後の研究推進方策として、以下を設定する。
(1) ADMの生体内3次元細胞系譜解析を深化させ、Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+マウス、Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+; Pdx1-Flp; KrasFSF-G12D/+マウスを用いて、Dclk1陽性ADM細胞から膵腫瘍が生じる過程を二光子顕微鏡で経時的に観察する。
(2) ADMの脱分化・再分化に関わるシグナルの解析を深化させるため、膵腺房、ADM細胞をDclk1をマーカーとして経時的に収集し、ADM細胞に生じる動的なシグナル変化をscRNA-seqによりプロファイルする。さらに、ADMへの脱分化が可能な膵腺房細胞培養系を作出し、脱分化・再分化に及ぼす影響を検証する実験系を確立する。

次年度使用額が生じた理由

令和3年度に、Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+マウス、Dclk1CreER/+; Rosa26mTmG/+; Pdx1-Flp; KrasFSF-G12D/+マウスなど、研究に使用する遺伝子改変マウスの作出が順調に進み、予定よりマウス飼育費が安価となった。また、令和３年度には共同研究と学内機器の利用により、遺伝子発現解析等に要する費用も大幅にコストダウンが可能となった。
一方、令和4年度には元々予定し、かつ高額の費用を要する単一細胞解析を行うため、次年度使用額と合わせた予算額は、研究遂行に不可欠である。

研究成果

• [雑誌論文] Multiple pancreatic neuroendocrine tumors in OFCD syndrome caused by somatic BCOR mosaicism (2022)
  • 著者名/発表者名: Yamauchi Y, Kodama Y, Kakiuchi N, Seno H
  • 雑誌名: Pancreatology. 巻: 22 ページ: 335-337
  • DOI: 10.1016/j.pan.2021.12.014
  • 査読あり
• [雑誌論文] A novel technique for mapping biopsy of bile duct cancer. (2021)
  • 著者名/発表者名: Okada H, Uza N, Matsumori T, Matsumoto S, Muramoto Y, Ota S, Nakamura T, Yoshida H, Hirano T, Kuwada T, Marui S, Sogabe Y, Morita T, Kakiuchi N, Mima A, Ueda T, Nishikawa Y, Tsuda M, Maruno T, Shiokawa M, Takahashi K, Taura K, Minamiguchi S, Kodama Y, Seno H.
  • 雑誌名: Endoscopy. 巻: 53 ページ: 647-651
  • DOI: 10.1055/a-1248-2138
  • 査読あり
• [雑誌論文] Identification of an Anti-Integrin αvβ6 Autoantibody in Patients With Ulcerative Colitis (2021)
  • 著者名/発表者名: Kuwada T, Shiokawa M, Kodama Y, Ota S, Kakiuchi N, Nannya Y, Yamazaki H, Yoshida H, Nakamura T, Matsumoto S, Muramoto Y, Yamamoto S, Honzawa Y, Kuriyama K, Okamoto K, Hirano T, Okada H, Marui S, Sogabe Y, Morita T, Matsumori T, Mima A, Nishikawa Y, Ueda T, Matsumura K, Uza N, Chiba T, Seno H.
  • 雑誌名: Gastroenterology. 巻: 160 ページ: 2383-2394
  • DOI: 10.1053/j.gastro.2021.02.019
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Essential role of Notch/Hes1 signaling in postnatal pancreatic exocrine development (2021)
  • 著者名/発表者名: Kuriyama K, Kodama Y, Shiokawa M, Nishikawa Y, Marui S, Kuwada T, Sogabe Y, Kakiuchi N, Tomono T, Matsumori T, Mima A, Morita T, Ueda T, Tsuda M, Yamauchi Y, Sakuma Y, Ota Y, Maruno T, Uza N, Kageyama R, Chiba T, Seno H.
  • 雑誌名: J Gastroenterol. 巻: 56 ページ: 673-687
  • DOI: 10.1007/s00535-021-01779-y
  • 査読あり
• [雑誌論文] SNAIL2 contributes to tumorigenicity and chemotherapy resistance in pancreatic cancer by regulating IGFBP2 (2021)
  • 著者名/発表者名: Masuo K, Chen R, Yogo A, Sugiyama A, Fukuda A, Masui T, Uemoto S, Seno H, Takaishi S.
  • 雑誌名: Cancer Sci. 巻: 112 ページ: 4987-4999
  • DOI: 10.1111/cas.15162
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 多段階発癌におけるミスマッチ修復異常関連体細胞変異シグネチャーの抽出 (2021)
  • 著者名/発表者名: 竹田治彦、高井淳、恵荘裕嗣、高橋健、田浦康二朗、波多野悦朗、喜多竜一、丸澤宏之、藤本明洋、妹尾浩
  • 学会等名: 第24回日本肝がん分子標的 治療研究会
• [学会発表] The mechanism of pancreatic cancer development. (2021)
  • 著者名/発表者名: Akihisa Fukuda
  • 学会等名: The 5th Annual conference of Al-Azhar Hepatogastroenterology club
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] SETDB1 IS REQUIRED FOR FORMATION OF PANCREATIC DUCTAL ADENOCARCINOMA BY INHIBITING APOPTOSIS THROUGH REGULATION OF P53 EXPRESSION (2021)
  • 著者名/発表者名: 小川智、福田晃久、妹尾浩
  • 学会等名: 第80回日本癌学会学術総会
• [学会発表] Bmi1 is required for pancreatic ductal adenocarcinoma formation through regulating PI3K/AKT pathway and acinar genes (2021)
  • 著者名/発表者名: Makoto Sono, Akihisa Fukuda, Tomonori Masuda, Yuichi Fukunaga, Takaaki Yoshikawa, Osamu Araki, Munemasa Nagao, Satoshi Ogawa, Yukiko Hiramatsu, Takahisa Maruno, Yuki Nakanishi, Hiroshi Seno
  • 学会等名: 第80回日本癌学会学術総会
• [学会発表] 福永裕一、福田晃久、薗誠、益田朋典、吉川貴章、荒木理、長尾宗政、平松由紀子、小川智、丸野貴久、中西佑貴、鶴山竜昭、妹尾浩 (2021)
  • 著者名/発表者名: Simultaneous loss of Arid1a and Pten in pancreatic ductal cells induces ITPN and PDAC through activation of YAP/TAZ
  • 学会等名: 第80回日本癌学会学術総会
• [学会発表] Reck suppresses pancreatic cancer formation, epithelial-mesenchymal transition and metastasis in mice. (2021)
  • 著者名/発表者名: Tomonori Masuda, Fukuda Akihisa, Sono Makoto, Fukunaga Yuichi, Yoshikawa Takaaki, Araki Osamu, Munemasa Nagao, Hiramatsu Yukiko, Ogawa Satoshi,Tsuda Motoyuki, Maruno Takahisa, Nakanishi Yuki, Matsuzaki Tomoko, Noda Makoto, Seno Hiroshi.
  • 学会等名: 第80回日本癌学会学術総会
• [学会発表] Analysis of pancreato-biliary cancer development using mice and organoids (2021)
  • 著者名/発表者名: Hiroshi Seno, Munemasa Nagao, Yuichi Fukunaga, Satoshi Ogawa, Takahisa Maruno, Akihisa Fukuda
  • 学会等名: 第80回日本癌学会学術総会
• [学会発表] クロマチン制御因子Brg1は膵癌の増大・転移に重要である (2021)
  • 著者名/発表者名: 荒木理、福田晃久、妹尾浩
  • 学会等名: 第107回日本消化器病学会総会
• [備考] 京都大学消化器内科ウェブサイト
  • URL: https://gastro.kuhp.kyoto-u.ac.jp/