本研究では、ヒト腎オルガノイドを血管化・灌流し高次糸球体構造と濾過機能を生体外で再現する培養システムの開発、さらに、同システムを用いて、血管化・灌流を受けて高次糸球体構造が形成され機能を獲得し維持されるしくみを明らかにすることを目指した。令和3年度には、CHIRで発生誘導後のオルガノイドを、様々な条件下で血管灌流チップに導入し血管化・灌流培養を行った。しかし、灌流により糸球体内への血管の侵入は促進されるものの、血管化され成熟した糸球体を誘導できる条件は見出せなかった。 令和4年度は、さらなる条件の検討を行った。その一つは、転写因子ETV2遺伝子を導入した血管内皮細胞を用いて、血管灌流チップ内の血管網形成および腎オルガノイド内の血管網形成誘導を行った。同遺伝子導入により、血管内皮細胞の未熟化、活性化を誘導し、血管新生能を亢進させると期待された。しかし、ETV2遺伝子を導入した血管内皮細胞を腎オルガノイド形成の際に混入させる操作自体が、腎オルガノイドの発生に大きな悪影響を与えた。一方、血管灌流チップ血管網内皮細胞への悪影響は認めなかった。しかし、遺伝子導入効率の低さのためか、オルガノイド内に成熟した腎糸球体血管を誘導するには至らなかった。また、これまでの血管灌流チップに代替できるより簡易的な血管灌流システムの構築を試みた。適切な孔径をもつメンブレン上面のフィブリンコラーゲンゲル内に血管内皮細胞による3次元自己組織化血管網を誘導した。次に、メンブレン対側にオルガノイドを接着させ培養した。この方法では、腎臓発生のために重要な気液界面培養と血管網培養を同時に実現できる可能性を秘めている。ここまでの検討で、外部の自己組織化血管網とオルガノイド内部の血管網が連結するところまでは実現できた。同システムにてオルガノイド糸球体内に成熟した血管構造が誘導できるかは、今後の課題として残された。
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