研究課題/領域番号 |
21K19503
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
篁 俊成 金沢大学, 医学系, 教授 (00324111)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝疾患 / 2型糖尿病 / SGLT2阻害薬 / 肝臓遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
申請者は先に、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の肝線維化軽減には、血糖コントロールとインスリン治療が、それぞれ独立して寄与することを示した(Diabetes Care 2010)。しかし、インスリン使用と高インスリン血症は同一ではなく、高インスリン血症であることが肝線維化の改善に有用であるかは不明である。そこで、同等に血糖を低下させながら、内因性インスリン分泌を増加させないSGLT2阻害薬(トホグリフロジン、T群)および増加させるSU薬(グリメピリド、G群)が、それぞれNAFLD患者の肝病理に及ぼす影響を検討した。T群では、すべての肝病理(Steatosis、Ballooning、Inflammation、Fibrosis)のスコア-が有意に改善(65%, 55%, 50%, 60%)。T群では、体重とHbA1cの低下が肝脂肪化軽減に寄与した。一方、肝線維化の軽減にはHbA1cの低下が優位に寄与した。T群の治療前後でsingle-cell RNAseq解析を行い、肝病理変化と関連する細胞クラスターごとの遺伝子発現プロファイルを得た。肝脂肪化の強い症例ほど中心静脈周辺Zone 3の類洞内皮細胞と肝細胞が脱落していた。一方、肝脂肪化の強い症例ほど、γδT細胞、炎症性マクロファージ、星細胞が増加していた。T治療はこれらのプロファイルシフトを軽減させた。本介入研究は、NAFLD患者の肝線維化軽減に血糖コントロールが寄与することを前向きに示した。糖尿病に関連した脂肪肝炎の病態に、Zone 3の肝細胞と類洞内皮細胞の障害が関与する可能性がある。 次に、general population cohort研究から、NAFLD関連と関連するAPOC3遺伝子多型が脂質摂取量と交互作用することを見出した。この知見はnutrigenomicsに基づいたテーラーメイド栄養指導の基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実臨床での連続肝生検研究によるリアルワールドエビデンスの解析に加えて、NAFLDを合併する糖尿病患者を対象とした糖尿病薬のランダム化比較試験から、肝脂肪化と肝線維化の軽減に寄与する病態を遺伝子発現プロファイルを明らかにすることができた。本研究は米国糖尿病学会誌 Diabetes Care 45:2064-75, 2022に掲載された。 さらに、コホート研究から、NAFLDに及ぼす体質-環境相互作用を明らかにし、米国栄養学会誌 Curr Dev Nutr 7:100051, 2023に掲載された 。
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今後の研究の推進方策 |
混合モデルを用いて、連続肝生検研究による肝臓線維化進展因子の抽出と遺伝子発現プロファイル解析を終え、論文投稿中(in revision)である。さらに肝臓脂肪化、肝細胞変性・炎症の変化と関連する病態と遺伝子発現プロファイルを解析する予定である。 ヒトNAFLDの進展に及ぼす糖尿病の意義と分子病理をさらに解明するために、モデル動物を樹立し、次の萌芽研究(開拓)につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に、今年度COVID19感染拡大により参加できなかった国際学会への参加、成果の論文掲載費、オープンアクセス料を計画しているため。
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