研究実績の概要 |
筋細胞分化の転写因子MEF2DのアイソフォームMEF2D α1はHDAC4と結合し分化に抑制的に作用するが、MEF2D α2はASH2Lと結合し分化誘導に働くと考えられている。RBFOX2は、スプライシングにおけるα2 exonの選択を誘導する。本研究では、MEF2D融合遺伝子陽性ALLに対して、MEF2D融合遺伝子のスプライシングにおけるα2エクソンの使用(α2スイッチ)を誘導し、分化誘導型アイソフォームにすることで、MEF2D融合蛋白の分化抑制能を解消する治療法開発を行なった。今年度はドキシサイクリン誘導性にRBFOX2を発現するレンチウイルスベクターを作製し、これをMEF2D-BCL9 (M-B)陽性ALL細胞株KOPN70に安定導入した細胞を作製した。RBFOX2を発現誘導するとM-B遺伝子にα2スイッチが起きたが、予想に反して、細胞増殖、生存率、B細胞分化状態のいずれにもα2スイッチ誘導に伴う変化が認められなかった。さらに、PAX5転写標的遺伝子であるCD19、BLNKなどのmRNA発現にも有意な変化は認められなかった。これらの結果から、M-Bでは、α2スイッチが起きても期待した抗白血病効果は得られないと予想されたため、α2スイッチ誘導作用を持つ薬剤のスクリーニングシステムの構築は中止し、M-BによるPAX5転写活性抑制の解除に働く可能性のある化合物の効果の検証をおこなった。Rp-8-Br-cAMPs(PKA阻害剤)、BML-210(HDAC4結合阻害剤)、TMP195, TMP269, LMK235(Class II HDAC選択的阻害剤)について検討をおこなったが、M-BによるPAX5転写活性抑制の解除、あるいはKOPN70増殖の選択的抑制に働く薬剤はなかった。本研究ではM-Bにα2スイッチを誘導することには成功したが、それは期待した抗白血病効果を示さなかった
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