研究課題/領域番号 |
21K19514
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
松村 貴由 自治医科大学, 医学部, 講師 (80436485)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 老化 / シングルセル解析 |
研究実績の概要 |
造血幹細胞の老化は悪性腫瘍のみならず心血管疾患の危険因子にもなる。造血幹細胞の老化には様々な内的要因と外的要因が複合的に関与しているが、外的因子の老化への影響には個々の幹細胞ごとに違いがみられ、その全体像を理解するためには造血幹細胞の異質性を踏まえた解析が不可欠である。しかし、既存の技術では単一細胞からゲノム解析とエピゲノム解析を同時に行うことができなかった。 本研究ではエマルジョン化による単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化という新しい手法により、1個の細胞からゲノム解析とエピゲノム解析を同時に行う新技術、単一細胞(シングルセル)RNAシークエンシング(RNA-seq)と単一細胞(シングルセル)ATACシークエンシング(ATAC-seq)の同時解析の手法を確立すること、および、この新技術を用いて造血幹細胞老化の異質性を克服し、その本質を明らかにすることを目的としている。 初年度は、まず単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化の条件検討を行い、ほぼ満足のいく結果が得られた。ただし、この条件は生物種ごと細胞種ごと微調整が必要であり、今後もサンプルの種類ごとに調整が必要と思われる。 次に、実際のシングルセルRNA-seqとシングルセルATAC-seqの同時解析も最終的なデータ解析まで行った。バイオインフォマティクス(生物統計学)的に質のよい核内DNAと核内RNAが回収されたことを確認した。シングルセルRNA-seq単体のデータ解析およびシングルセルATAC-seq単体のデータ解析については解析方法についてある程度の世界的コンセンサスが得られているが、両者をどのように統合するのがよいかはまだ議論が繰り返されている。特に細胞周期の影響をどのように除去するか、などについて申請者自身の考案した解析法を試みるなど、海外の研究者とも議論を繰り返しながら、よりよい方法を模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本実験計画初年度においては、まずエマルジョン化による単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化の条件検討を行った。一例として、細胞処理の溶媒および反応時間を調整することにより、造血幹細胞の細胞膜は完全に破壊されるものの、核膜は維持される条件を見出し、単一細胞の核内DNAと核内RNAを同時にバーコード化、その後、両者を生化学的に分離、回収する条件を確立した。DNAとRNAの品質は生化学的およびバイオインフォマティクス(生物統計学)的に確認し、どちらも大きく品質を低下させることなくほぼ満足できる品質であった。その他、造血幹細胞の回収から最終的にデータを解析するところまでに必要な各ステップを確認し、バイオインフォマティクスの部分を除き、実験手技はほぼ確立できたと考えている。また、本実験に使用する試薬は高額のものが多いため、いかに安価に実験をするかについても検討している。 バイオインフォマティクスの分野については、上述の通り、シングルセルRNA-seqのデータとシングルセルATAC-seqのデータをどのように統合するのがよいかは世界的にもまだ議論が繰り返されている分野であり、申請者自身もまだ、最良のやり方を見出したとは言い難い。しかし、特に細胞周期の影響をどのように除去するか、などについて申請者自身の考案した解析法を試みて比較的よい結果が得られているなど、今後も海外の研究者と議論しながらより良い方法を模索していきたいと考えている。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画ではエマルジョン化による単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化という新しい実験手法により、1個の細胞からゲノム解析とエピゲノム解析を同時に行う新しい技術、単一細胞(シングルセル)RNAシークエンシング(RNA-seq)と単一細胞(シングルセル)ATACシークエンシング(ATAC-seq)の同時解析の手法を確立すること、および、この新技術を用いて造血幹細胞老化の異質性を克服し、その本質を明らかにすることを目的としている。 初年度において、特にサンプル調整の部分についてはほぼ実験手法は確立しつつある。このため、次年度以降は、まずシングルセルRNA-seqのデータとシングルセルATAC-seqのデータをどのように統合するのがよいかの検討、特に複数サンプルのシングルセルRNA-seqのデータと複数サンプルのシングルセルATAC-seqのデータをどう統合するかがよいかについて検討する。さらに、従来のシングルセルRNA-seq及びシングルセルATAC-seqで得られる情報はもちろん、シングルセルRNA-seqによるゲノムの異質性とシングルセルATAC-seqによるエピゲノムの異質性の直接的対応関係の把握のみならず、それぞれ単独では得られなかった新規の遺伝子間ネットワークの発見や従来ならHiChIPやChIA-PETなど10^7個程度の細胞を必要とする実験でしか得られなかったゲノム3次元構造の解明なども行う。 エマルジョン化による単一細胞のバーコード化という最新実験手法と、それに対応するべく発展した最新のバイオインフォマティクスを駆使し、造血幹細胞の異質性を克服し、造血幹細胞老化の本質に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症のため国内・国際学会への参加がなく、旅費を使用しなかったため。差額については次年度実験を行うための試薬購入などに使用する予定。
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