造血幹細胞の老化は悪性腫瘍のみならず心血管疾患の危険因子にもなる。造血幹細胞の老化には様々な内的要因と外的要因が複合的に関与しているが、外的因子の老化への影響には個々の幹細胞ごとに違いがみられ、その全体像を理解するためには造血幹細胞の異質性を踏まえた解析が不可欠である。 本研究ではエマルジョン化による単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化という新しい手法により、1個の細胞からゲノム解析とエピゲノム解析を同時に行う新技術、単一細胞(シングルセル)RNAシークエンシング(RNA-seq)と単一細胞(シングルセル)ATACシークエンシング(ATAC-seq)の同時解析の手法を確立すること、および、この新技術を用いて造血幹細胞老化の異質性を克服し、その本質を明らかにすることを目的とした。 研究期間中に、単一細胞のDNAとRNAの同時バーコード化の条件検討を行い、ほぼ満足のいく結果が得られた。この条件は生物種ごと細胞種ごと微調整が必要であるが、その点についても条件検討を行った。また、次世代シークエンサーで収集したシングルセルRNA-seqデータとシングルセルATAC-seqデータの統合・解析法についても解析アルゴリズムを確立できた。 本研究により確立された実験・解析法を利用して、若年マウスから得られた造血幹細胞と老年マウスから得られた造血幹細胞の比較にて、老化造血幹細胞を特徴づける遺伝子変化、エピゲノム変化を捉えることに成功した。さらに、老化造血幹細胞の中で、より老化が進んでいる細胞集団と比較的機能が保たれている細胞集団を特定することにも成功し、現在、著名な査読付き国際学術雑誌に投稿中である。
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