研究課題/領域番号 |
21K19521
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
馬場 洋 新潟大学, 医歯学系, 教授 (00262436)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | spinal cord / Ca imaging / spinal anesthesia / patch clamp / methadone |
研究実績の概要 |
令和3年度は、後根付き脊髄スライス標本において後根刺激による脊髄後角細胞の興奮が高濃度のメサドンによって完全に消失することを再確認し、その濃度と抑制率を調べ、用量反応曲線を作成した。また、別の代表的なオピオイドである塩酸モルヒネでは1mMol~3mMolの非常に高い濃度においてもメサドンと同様の抑制効果が得られないことを確認した。また、同様の実験をクエン酸フェンタニル、ブプレノルフィンでも行ってみたが、メサドンのような抑制効果は観察されなかった。このことにより、メサドンの作用はオピオイドの一般的な作用ではなく、メサドンに特有の作用であることがわかった。 また、このメサドンの抑制機序として、後根内の神経線維の活動電位伝導遮断が想定されるため、令和3年度は後根からの複合性活動電位(compound action potential:CAP)の記録も行い、後根の電気刺激で誘発されるCAPがメサドンで抑制されるかどうか調べた。その結果、非常に高濃度のメサドン(3mMol以上)はA-alpha/beta、A-delta、C-fiberを介する複合性活動電位(CAP)を若干抑制するが、少なくとも300microMolまでの濃度では後根内の神経の可動動電位の伝導には影響しないことがわかった。 以上、消去法的ではあるが、メサドンの作用部位は後根内の神経線維の活動電位の伝導ではなく、一次求心性線維終末の伝達物質(おそらくグルタミン酸)放出の抑制であることが示唆された。また、放出抑制の機序としては、一次求心性線維終末に存在する電位依存性Caチャネルであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は後根からの複合性活動電位(compound action potential:CAP)の結果から、メサドンの抑制機序として、後根内の神経線維の活動電位伝導遮断という機序を否定することができた。このことから、メサドンの作用部位は一次求心性線維終末の伝達物質放出の抑制であることがほぼ確定的となり、次に行うべき実験の方向性がより具体的に明らかとなった。以上の理由から、研究計画としてはおおむね順調に進んでいると言って良いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はCaイメージングで用いた後根付き脊髄スライスと同様の脊髄スライスを作成し、後角細胞からホールセルパッチクランプ記録を行う。このスライスにおいて後根の電気刺激をすると第2-5層細胞には単シナプス性興奮性シナプス後電位(EPSC)が誘発される。高濃度ナロキソンでオピオイド受容体を完全に遮断した状態で、これらの後根刺激誘発性単シナプス性EPSCがメサドンの灌流投与によって抑制あるいは消失することを証明する。令和21年度の実験によって、メサドンは後根の神経興奮伝導には影響しないことを確認してあるので、メサドンの灌流投与によってEPSCが抑制あるいは消失するのであれば、メサドンの作用部位は一次求心性線維終末であることが強く示唆される。現時点では、メサドンは一次求心性線維終末の電位依存性Caチャネルであることが想定され、それはカプサイシンを用いた実験によって証明する予定であるが、おそらくその実験は令和4年度に行うことはできないと思われるので、令和5年度に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に行った実験では高額な試薬を購入する必要がなかったことに加え、コロナ感染拡大のため、実質的にはほぼすべての学会が中止またはWEB開催のみとなり、交通費が全くかからなかったことが、予想以上に経費がかからなかったことの最も大きな理由である。
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