研究課題/領域番号 |
21K19526
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石井 秀始 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
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研究分担者 |
江口 英利 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90542118)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | エクソソーム / がん幹細胞 / 膵がん |
研究実績の概要 |
本計画では、「がん幹細胞」の機能と存在を精密に診断するために、腫瘍の根源となる「がん幹細胞」を分離培養し、そこから分泌される「細胞外小胞」の『中身』の①増殖(RNA配列)と②代謝(RNAメチル化)に加えて、『殻』の脂質二重膜として、組織と分化の情報を加えた4要素を粒子レベルで把握し、がんの生物学的な悪性度を最高レベルの解像度で理解できる革新的な技術を開発した。 これまでの研究成果で、CD133、CD44、CD13等のマーカーが「がん幹細胞」の峻別に役立つことが明らかとなっていたので、このマーカーを用いて、早期の膵がん症例を蓄積して検討し、計測系を最適化するために研究を進めた。合わせてES細胞培養で用いているメディウムの中で増幅させて、検討を加えた。 本研究の成果により、「がん幹細胞」から分泌される細胞外小胞を効率よくキャプチャーして濃縮する効率が、従来法の20から80倍程度まで向上し、その精度はさらに改善されると期待される。 どのがん幹細胞かどのような細胞外小胞を分泌しているか、細胞の由来を対比させて細胞膜の性状に基づいて情報基盤を構築することができた。これらの知見は大阪大学の知的財産として整備を進め、実験的な技術のノウハウに関しては論文及び学会発表で公表した。 このように、本研究において微細な細胞外分泌小胞の性状に基づくがん幹細胞のプロファイリングに向けて、技術を改善させてバイオマーカーの基盤を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちは「がん幹細胞」をがん随伴線維芽細胞、T細胞、マクロファージを含めた腫瘍組織として高機能スフェア(低接着プレートとES細胞培養条件で維持できる単一細胞に由来する細胞塊)として評価できる技術を開発した。 本研究では、①膵がんのマウスモデル(K-RAS/TP53変異)、②大阪大学付属病院で手術的に切除したヒト膵臓組織から「がん幹細胞」を分離し、スフェアからの「細胞外小胞」の『中身』と『殻』を検討する研究を進めた。 「がん幹細胞」を含めた腫瘍組織の高機能スフェアから分泌される「細胞外小胞」の『中身』と『殻』をシングル細胞レベルで計測し、どの「がん幹細胞」からどの「細胞外小胞」が分泌されるか、統計的に確率的に対応づけることで医療に応用した。 情報解析:臨床ステージⅠ~Ⅲの膵がんの手術切除で得られる1患者あたり概ね1億個のがん細胞から、200個程度の「がん幹細胞」のスフェアを作成した。 血液1mlから1万倍に濃縮して解析し、「細胞外小胞」を検討、臨床的なリキッドバイオプシーに応用した。「細胞外小胞」の『中身』(RNAの配列とメチル化アデニン[m6A]とメチル化シトシン[5mC])および『殻』(抗原、電化、大きさ)の情報から情報を機械学習した。 医工連携により上記の大容量の高速機械学習が高精度の成果をもたらすことを確認できたとととに、膵がん患者のリキッドバイオプシー(血清)から、『殻』の蛋白に対する抗体で収集し、『中身』のマイクロRNAの配列とメチル化を比較し、RNAメチル化イベントに相補的な架橋型核酸(LNA)で濃縮し、質量分析して検討を進めた。本研究の成果により、「細胞外小胞」から「がん幹細胞」の生物学的な悪性度を高い精度で診断することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
様々な臨床ステージの膵がんの手術切除で得られるがん細胞から、「がん幹細胞」のスフェアを作成することにより、「がん幹細胞」の『殻』と『中身』を統合的に把握するための解析基盤を完成に近づけることができた。本研究で明らかとなった、『中身』(RNAの配列とメチル化アデニン[m6A]とメチル化シトシン[5mC])および『殻』(抗原、電化、大きさ)の情報は、体の深部の病巣を、シングル細胞レベルの解像度で体外からのリキッドバイオプシーで予測することを可能とするものである。 さらなる医工連携により上記の大容量の高速機械学習を進め、膵がん患者のリキッドバイオプシー(血清)から、Let-7、 miR-17(以上m6A)、 miR-21、 miR200c(以上5mC)の情報を加えた高精度の継続技術は、一分子1細胞の解析の科学をさらに発展させるものである。 本研究の成果は、難治性消化器がんである膵がんをはじめとした転移性大腸がん、さらには乳がんや肺がんにおける「がん幹細胞」の診断と標的化にも応用することができる。 「がん幹細胞」を取り巻く間質の活性化線維芽細胞(CAF)の性質と機能の把握にも応用することが可能である。 この応用研究の発展は、がん細胞が存在するがん微小環境の性質に合わせた難治がんの「兵糧攻め」という新しい治療法の開発に応用することが可能である。 実際に、難治がんの「兵糧攻め」に関して、CAFをターゲットとした治療法は、本研究の成果として新しいシーズを生み出すことができた。細胞内外の特異的な分子に着目することにより、「兵糧攻め」に適した画期的な治療技術を開発することができる。この「兵糧攻め」戦略においても、本研究のバイオマーカーの開発は、コンパニオン診断として重要なツールを提供することにつながり、社会実装において、製薬系企業等の共同研究を促進し、国民医療の向上に向けて大きく貢献することができる。
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