研究課題/領域番号 |
21K19534
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山下 洋市 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (00404070)
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研究分担者 |
井嶋 博之 九州大学, 工学研究院, 教授 (10274515)
今井 克憲 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (60555746)
林 洋光 熊本大学, 病院, 助教 (80625773)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 生体吸収膵臓クリップ / 形状記憶 |
研究実績の概要 |
医工連携研究により、生体吸収形状記憶膵臓クリップを用いた革新的膵切離法の確立に挑戦する。膵切除後膵液瘻は未だに解決できない膵臓外科のアキレス腱である。我々は、実臨床での経験やブタ膵切離後断端耐圧能に関するex vivo実験の結果から、切離膵断端に何らかの損傷を来す現行の膵切離では「膵液瘻ゼロ」は達成できないという結論に至った。そこで、全く新しい発想だが、「生体吸収形状記憶膵臓クリップ」で膵切離断端を閉鎖する膵切離を考案した。膵臓クリップのベース基材は、医療用分解性基材として広く用いられているポリカプロラクトン(PCL)とする。PCLにジアクリレート等を導入して室温から体温で形状回復するように加工する。ブタの十二指腸・膵臓を体外に取り出し、膵切離後にその断端耐圧能を測定するex vivo実験により、膵臓クリップの形状(幅・厚さ・曲率など)を最適化する。また、ブタを全身麻酔下に生体吸収形状記憶膵臓クリップで膵を閉鎖した後に切離する。ミニブタを用いて術後3ヶ月まで「長期観察」し、膵液瘻の有無、膵断端の治癒過程、クリップの生体吸収性、クリップの形状記憶性を評価して、膵臓クリップの生分解性と形状記憶性を最適化する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体吸収膵臓クリップを考案してプロトタイプを作製した。既にPCT出願を済ませていたが、アメリカと中国に特許を申請した。独自にブタの尾側膵切除モデルを作製して、通常臨床で使用しているステープラーを用いた切離群(n=2) と生体吸収膵臓クリップを用いた群(n=3)で1ヵ月間経過を観察するFeasibility試験を行った。ステープラー群は1匹が術後早期(7日目)にmajorな膵液漏で死亡、もう1匹も1ヵ月生存したものの、minorな膵液漏を認めて、食事摂取が不良であった。一方、クリップ群は3匹とも膵液漏なく、1ヵ月元気に生存した。膵閉鎖部をH&E染色で確認すると、ステープラー群で早期死亡した例では、閉鎖不良の主膵管を認めた。一方で、クリップ群は、良好なクリップによる膵実質と主膵管の閉鎖を認めた。この良好なFeasibility試験の結果は、我々の新しいコンセプトの有効性を指示する重要な結果であり、2021年10月号のSurgery Today誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
生体吸収膵臓クリップの生体吸収に関して、ミニブタを用いて尾側膵切除を行って評価する。3ヵ月残存、6ヵ月吸収が理想と考えている。 生体吸収膵臓クリップに形状記憶性を付与するため、ベース基材であるポリカプロラクトンにジアクリレート等の非晶質リンカー(各種ジアクリレートや1.2.4-トリアゾシン-3.5ジオン等)を導入する事により、形状記憶性を付与する。Ex vivo 膵断端耐圧能試験でその有効性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:試薬、消耗品については、医局内保管のものを使用することができた。また、旅費については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により学会開催形式がハイブリッド開催となる事が多く出張が減った為、未使用額が生じた。
使用計画:試薬、消耗品の購入及び研究データの管理、資料整理を行ってもらうための事務補佐員の雇用経費に充てたい。また、最新の研究情報を得るため、及び、研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
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