研究課題/領域番号 |
21K19541
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任教授 (70265809)
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研究分担者 |
松本 有加 順天堂大学, 医学部, 助教 (50813672)
須田 一人 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60784725)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 腸オルガノイド / 腸上皮幹細胞 / 腸管不全 / 短腸症候群 / GLP-2 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
広範囲小腸切除で生じる短腸症候群(SBS)では、残存腸の代償が不十分の場合には生命維持を脅かす重大な事態を引き起こす。腸管上皮内分泌細胞であるL細胞が分泌するGLP-2は、小腸粘膜増殖、消化吸収促進など多彩な作用を示すペプチドホルモンである。アミノ酸置換(2番目のAla→Gly)で半減期を延長した製剤(Gly2-GLP-2; Teduglutide)は、腸管不全に対し承認された薬剤として効果が期待される。しかしながら、ペプチド製剤として経口投与が困難で、かつ頻回で長期の注射投与が必要で、新しい発想に基づく治療開発が望まれている。 代表研究者はこれまでに、培養腸上皮オルガノイドを大腸に移植する研究を展開してきた。本研究ではこれをさらに発展させ、腸上皮オルガノイド遺伝子改変とマウス移植実験を組み合わせ、誘導薬剤を経口投与すると、腸に移植した改変オルガノイドからGLP-2アナログが分泌される新規マウスモデル構築を目的として開始した。具体的には、テトラサイクリン誘導性発現(Tet-On)システムを用い、ドキシサイクリン(Dox)投与に応答しGLP-2アナログを分泌する腸上皮オルガノイドを複数種作成し、作成したオルガノイドをマウス大腸の一部に生着させ、Dox経口投与でこの移植片からGLP-2アナログが産生されるマウスモデルを作成し、各マウスでの誘導性GLP-2アナログ産生がSBSモデルマウス残存腸の代償に及ぼす影響を解析する。 代表者がもつ腸オルガノイド培養と移植技術を組み合わせる本研究は、移植生着領域に「限局性に」、幹細胞を含み改変した腸上皮で「永続的」に、経口投与するDoxにより「誘導性」にペプチドアナログを分泌する画期的動物モデル構築を図る点で、挑戦的かつ萌芽的研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、予備検討として、CRIPR/Cas9システムでの遺伝子編集に必要なドナーベクターなどをすでに作成した。また、腸オルガノイドへの遺伝子導入(エレクトロポレーション)もすでに条件を設定した。オルガノイド移植を含む動物実験については、マウス大腸の近位や遠位など任意の部位で粘膜表層を解離する技術を確立した。すなわち、管腔側にキレート材であるEDTAを作用させて上皮を解離し、ここへ別に培養しておいてオルガノイド細胞を生着させる大腸上皮置換技術を、再現性の高い安定した技術として確立した。具体的には、全身麻酔下にマウスを開腹し、内腔操作を可能とするチューブを大腸に挿入し、致死的とならずに上皮解離を可能にする技術を開発した。その後、別に用意した腸オルガノイドを注入し、上皮解離部に移植する手技も確立した。手術後のマウスが長期にわたり生存し、評価可能とするための条件設定もできた。 一方、3種の遺伝子改変マウス小腸上皮オルガノイド、すなわち i) Villin-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイド、ii) isl1-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイド、iii) Gcg-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイドは未だ作成に至っていない。新型コロナウィルスの感染拡大に伴う実験資材の生産や流通の滞りにより、円滑に実験操作を進められなかったことも原因の一つと考えられた。これを受け、進捗状況区分としては「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子改変オルガノイド作成のための技術基盤は確立できたので、本研究に必要なi) Villin-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイド、ii) isl1-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイド、iii) Gcg-rtTA-EGFP; R26-TetO- Gly2-GLP-2 オルガノイド作成を進める予定である。オルガノイド作成後は、Dox添加によるmRNA・タンパクレベルでのGly2-GLP-2発現、その時間変化、Dox濃度の効果、Dox非投与時のバックグラウンド効果などを培養実験で詳細に解析する。 ここまで進めば、続いてマウス遠位大腸内腔の上皮を薬剤で解離し、先に作成した3種のオルガノイドを個別に移植生着させる。これにより、上皮置換領域のみで、経口投与するDox依存性に、全上皮細胞(villin+)、多種類の内分泌細胞(isl1+)、あるいはL細胞(Gcg+)のみからのGLP-2アナログ産生が誘導される。マウス作成後は、mRNA・タンパクレベルでDox投与時のGly2-GLP-2発現動態を解析する。これにより、Gly2-GLP-2産生細胞種(3種のオルガノイド)、 DOX投与量、移植生着面積や移植部位によるGLP-2アナログ遺伝子発現とタンパク産生を詳細に明らかにする予定である。 最終的には、上記のように作出した移植マウスモデルのうち、Dox非投与時のGLP-2アナログ発現が低く、かつDox投与時の発現が良好なものを選び、本システムの作動がSBS残存腸の代償機構に及ぼす効果を検証する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、予備検討として計画していた遺伝子改変オルガノイド作成、すなわち腸上皮オルガノイドの遺伝子編集に必要な実験条件を確定することができた。しかしながらこれ以外の部分において、特にマウスおよびラット腸管腔側にキレート材であるEDTAを作用させる条件確立に時間を割くこととなった。すなわち大腸上皮を剥離し、ここへ別に培養しておいてオルガノイド細胞を生着させる大腸上皮置換技術を再現性の高い安定した技術として確立するために、EDTA腸内注入による急性毒性の回避が重要な問題となることがわかり、そのための実験手技確立に時間を費やした。これにともない計画していた他の実験、すなわち実際の遺伝子改変マウス小腸上皮オルガノイド作成、およびこれを用いたTet-Onシステムの検証実験に遅延が生じ、計画していた研究費を次年度使用にまわすこととなった。
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