研究課題
多くの音情報が存在する実環境における聞き取りに必要不可欠な、選択的注意のメカニズムが働く背景には、ヒト側の“聞く”という随意的な要因の他、「音のsaliency(顕著性)=注意のひきつけ易さ」という音情報そのものが有する要因が重要となる。本研究では、「saliency」の病理という側面を有する耳鳴や音響過敏臨床への展開を視野に入れ、注意妨害刺激による選択的注意への影響が介入により変化しうるかについて検討を行ってきた。2023年度は、特に、繰り返し刺激に対し、馴化(habituation)などの現象が認められるかを中心に検討を行い、以下のような注意機能の馴化に関係した知見を得ることができた。1)心理学的検討:一側の耳に提示した語音聴取に対する対側耳に提示する注意妨害音効果を指標に馴化の効果を検討した。正常被験者では、有意な馴化効果、すなわち、語音明瞭度の改善は認めらなかったが、注意機能の問題を有すると考えられているListening difficultiesの症例では、馴化傾向、すなわち、語音明瞭度の改善傾向が示唆された。2)心理音響現象の メカニズムを明らかにする目的での脳磁図計測を用いた他覚的評価での補足的検討:一側の耳に提示したトーンバースト音に対するN1反応の振幅に対する対側注意妨害音効果の馴化を検討した。その結果、同じ刺激の繰り返しの刺激により対側注意妨害音によるN1の振幅の抑制効果は減少するが、注意妨害刺激を変更することにより(すなわち、新たな妨害音を用いることにより)、再び振幅抑制効果は大きくなる現象が確認された。3)瞳孔径を指標にした検討:突然の音刺激に対する注意により、瞳孔径が変化することが知られているが、この反応に対する馴化の影響を観察した。その結果、繰り返しの刺激により反応が低下する現象が確認された。
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AUDIOLOGY JAPAN
巻: 66 ページ: 237~246
10.4295/audiology.66.237
巻: 66 ページ: 169~185
10.4295/audiology.66.169