成体における骨は構造的堅牢性やミネラル代謝恒常性を維持するため、骨吸収と骨形成によってダイナミックに生まれ変わることで力学的刺激に対し組織レベルで適応・修復している。この一連の機構が破綻すると骨の異常だけでなく骨格筋や免疫系などの全身性の異常が引き起こされることから、骨の動的恒常性の維持が全身性の生体制御機構に関連すると考えられている。すなわち、骨は単なる運動器の一部として働くだけにとどまらず、外界からの刺激を感受し、全身の臓器・細胞制御に能動的に関わることが明らかになってきた。これらのプロセスに主に関わると考えられる細胞が骨細胞で、これは骨形成を担う骨芽細胞が最終分化し骨基質中に埋まった細胞であるが、それらの実態や制御メカニズムは不明な点が多く残されているのが現状である。 今年度は、これまで骨細胞特異的Creマウスとして世界的に広く用いられてきたがその特異性に問題(骨芽細胞などの骨構成細胞のみならず骨格筋や消化管、脳などの一部細胞でも非特異的なloxP組換えが起きてしまう)のあるDmp1-Creマウスを使用せず、新たに作製した真に骨細胞特異的なCre発現マウスを用いて、骨細胞特異的ジフテリア毒素受容体発現マウスを作製し、ジフテリア毒素を投与して誘導性に骨細胞を特異的に欠失させた。これらのマウスでは、出産時までの仔マウスの発生や母マウスの乳腺形成・乳汁分泌には影響がなかったにもかかわらず、母性行動の異常をみとめたこれまで全く知られていなかった母マウスの母性行動への影響が観察された。また、骨細胞特異的Creマウスを用いたin vivoラベリングマウスによる脳での骨細胞由来タンパク質のプロテオーム解析の最適化が完了した。
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