ウイルス感染から発癌に至る過程において、感染予防目的にワクチンや抗体、発癌した個体には手術・放射線・化学療法が適応となる。一方で、これらのウイルスが上皮細胞感染後に潜伏感染に移行した場合には、感染ウイルスの排除や感染細胞自身の排除に有効な治療法はなく、後者に対しては、我々の免疫が限定的に有効な程度である。 血液、鼻汁や唾液からのウイルス検出法が改良され、スクリーニングが可能となった。一方、検出後に癌化を防止する方法は確立されていない。そのため、上咽頭癌、中咽頭癌ともに感染後10数年の経過で癌化に至ると考えられている。 令和3年度は上咽頭癌組織において、非癌細胞が抗アポトーシス因子であるSparcを発現して癌細胞に抵抗していることを明らかにした。そして、この傾向は周辺細胞におけるSparc発現と上咽頭癌細胞におけるEBV遺伝子EBERsが相関することも判明した。EBV陽性上咽頭癌細胞株HK1-EBVは、EBV陰性上咽頭癌細胞株HK1との細胞競合現象によって排除されること、そして細胞競合現象を促進するといわれるポリフェノール抽出物であるレスベラドロール添加でHK1-EBVの排除が促進されることを明らかにした。令和4年度はさらに上咽頭癌で発現しているEBV遺伝子EBNA1、LMP1、LMP2をsiRNAを用いて抑制した際の細胞競合現象を観察しEBV遺伝子LMP1が細胞競合能に最も影響を与えることを明らかにした。そして、LMP1発現細胞とLMP1非発現細胞における細胞競合おいてもレスベラドロールはLMP1非発現細胞の細胞競合能を強化することが判明した。令和5年度はオートファジー阻害活性を有する薬剤クロロキンが上咽頭癌由来細胞株C666-MHCクラス I 抗原提示系活性化することが判明した。
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