研究課題/領域番号 |
21K19562
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00345886)
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研究分担者 |
吉原 雅人 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00878374)
横井 暁 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30737135)
芳川 修久 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (60804747)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 腹膜播種 / 休眠 / 腹膜中皮細胞 / 細胞間クロストーク |
研究実績の概要 |
現在、腹膜播種に対する有効な治療法は確立されているとはいえず、比較的、腹膜播種の発生が多いとされる卵巣癌、大腸癌、および胃癌の腹膜進展に関する分子生物学的機序については未だ不明な点が多い。よい植物が育つにはよい“種”とよい“土壌”が必要であり、腹膜播種の克服には、癌(種)だけではなく腹膜微小環境(土壌)も一体化して考える必要がある。本研究では、「土壌」となる“腫瘍の手先”にさせられた本来生体防御的であった腹膜中皮{癌関連腹膜中皮細胞: Cancer-associated peritoneal mesothelial cell:(CAM)}により、よい「種」としての腹腔内微小環境ストレスに抵抗性を有する生存能力の高い卵巣癌細胞の成立過程を検証し、CAMがどのようなメカニズムで腫瘍細胞の休眠や進化を助け、既存の抗腫瘍薬からの攻撃回避に機能しているかを解明することを最大の研究目的とした。
これまでの研究成果により、CAMに発現するNotchリガンドの一つであるDLL3を介して、一部の卵巣癌細胞にNotchシグナルが誘導されることが判明した。Notch陽性となった卵巣癌細胞は、幹細胞形質を獲得し、細胞周期の遅延や低栄養耐性などの休眠様の状態を呈することを解明した。さらにNotch陽性卵巣癌細胞はNotch陰性細胞から出現し、一方でNotch陰性卵巣癌細胞はNotch陽性細胞からも出現することが明らかとなった。またNotch陽性細胞は代謝変容を引き起こし、プラチナ製剤などへのストレス抵抗性を獲得している機序を明らかにした。これらの結果を統合することで、CAMが腹膜において卵巣癌細胞にNotchシグナルを誘導し、腹腔内微小環境におけるストレス抵抗性を獲得することで、既存の抗腫瘍薬からの攻撃回避に機能していることを突き止めた。これらの成果をもとに、現在論文を作成し投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、以下の内容に関する成果を挙げることができたと考える。
卵巣癌腹膜播種実験モデルを樹立し、腹膜中皮細胞との共培養で生じる癌細胞の変化を解析したところ、Notchシグナルの関与が同定された。一方、マウス腹腔内に移植された卵巣癌細胞では、皮下移植と比較してNotchシグナルが有意に誘導されることが判明した。さらに、卵巣癌腹膜播種臨床検体において、一部の癌細胞のみにNotchシグナルの亢進が見られることを発見した。すなわち、卵巣癌の腹膜播種巣において、Notchシグナルを介した相互作用により癌細胞間に極性が生じ、腫瘍内不均一性が誘導されていることが判明した。続いて、強制発現系を用いたNotch優位細胞株を樹立したところ、増殖能の低下と細胞周期の遅延を認め、代謝変容を示唆する結果がプロテオーム解析により導き出された。これらの結果より、卵巣癌腹膜播種巣において、癌細胞間の極性により生じたNotchシグナルが亢進した細胞では、休眠や幹細胞様の性質を獲得し、治療抵抗性を誘導していると考えられた。一方で、γセクレターゼ阻害剤を、腹膜中皮細胞と卵巣癌細胞の共培養による腹膜播種実験モデル、卵巣癌腹膜播種マウスモデルに使用したところ、双方で有意な癌細胞増殖や腫瘍形成の低下が見られた。これらの結果より、卵巣癌腹膜播種巣において、Notchシグナルを介した癌細胞の極性が腫瘍内不均一性を創出していると考えられた。さらに、Notchシグナルを標的としたγセクレターゼ活性制御は、進行卵巣癌における新規治療戦略となる可能性が示された。
また同様の細胞間クロストークを展開する卵巣癌や絨毛細胞などにおける同様のメカニズムの検証や手法の展開を図り、総説の作成や予備実験結果に基づく報告も行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を、より具体的な成果へと昇華させるべく研究を推し進める。卵巣癌において腹膜誘導性のNotch依存性腫瘍内不均一性が、主に代謝変容に基づく細胞運命のダイナミクスを生み出し、卵巣癌腹膜播種の進展を促進することが示されたことから、治療抵抗性の腹膜転移のこれらのメカニズムを標的としたγセクレターゼ阻害を含む候補物質などにより、卵巣癌の病勢制御を担うに新規戦略の開発を目指す。加えてトランスレーショナルなアプローチを用いて基礎・臨床横断的な医学研究を推進し、腹腔内全体を一つの包括的環境基軸と見なした研究を継続していく。
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