研究課題/領域番号 |
21K19564
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 典生 京都大学, 医学研究科, 准教授 (70378644)
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研究分担者 |
池川 雅哉 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (60381943)
中川 隆之 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50335270)
大西 弘恵 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50397634)
岡野 高之 京都大学, 医学研究科, 講師 (60642931)
十名 洋介 京都大学, 医学研究科, 助教 (80898073)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質 / 網羅的発現解析 / 蝸牛 |
研究実績の概要 |
本年度は、内耳を材料にしたイメージング質量分析(IMS)を行うための、標本の作成方法の検討をおこなった。IMSの標本は、位置情報を保存しながらタンパク質や糖質、糖脂質などの発現を網羅的に解析しなければならないので、標本作成の際にタンパク質の変性を伴う固定や脱灰を行うことができない。一方、本研究で検討する内耳は、成体では骨に包まれた臓器で、組織学的な解析を行う場合は通常脱灰が必須である。内耳のIMSを行うためには、構成タンパク質や糖質、糖脂質の構造を変化さないため、脱灰なしでの切片作成を行う必要がある。本年は、薄切の際の温度、刃を入れる方向、包埋剤などを様々な条件で試して、脱灰なしで内耳骨包の凍結切片作成を行った。成体マウスの頭部全体のブロックを、ミクロトームを用いて10 μmの厚さで薄切したところ、蝸牛内の血管条、コルチ器、ライスネル膜などを切片上で同定することができた。 また、IMSを切片ではなく、蝸牛のコルチ器を含む中央階の上皮上(いわゆるwhole mount)で行うための条件検討も行った。本条件の特徴は、1列の内有毛細胞と3列の外有毛細胞やその内側や外側に存在する支持細胞をターゲットにしたIMSを行うことができる点にある。こちらも切片と同様未固定、未脱灰で施行する必要があり、成体マウス蝸牛の外側壁やRoofを骨ごとはずして、ライスネル膜も除去し、内有毛細胞や外有毛細胞を含むコルチ器が上方から直視できる状態にし、スライドグラスに貼り付けた。HE染色をこの標本に行い、貼り付けた標本が染色中流水などでも剥がれ落ちないことを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である発生期マウス蝸牛及び感音難聴モデルマウス蝸牛を用いたIMSの手法の確立を行い、蝸牛の発生および感音難聴の病態に重要な役割をはたすタンパク質や糖脂質を解明し、その成果を新規感音難聴治療法の開発につなげること、のうち、ヒトの感音難聴のモデルマウスの成体蝸牛をIMSで解析できるように、サンプルの調整方法を検討しているところである。成体マウスの内耳は骨組織で覆われている一方、IMSを行うためにはタンパク質や糖質、脂質が変性しない状態でサンプルを調整する必要があり、脱灰やホルマリン固定などを行うことはできない。IMSを行うサンプルとして、切片と蝸牛コルチ器のWhole mountサンプルの2つを予定している。前者の場合、骨をのこしたままでの標本薄切が必要で、その条件検討と技術習得を行っている。ある程度の質のサンプルは得られているが、さらに高品質のサンプルを得ることができよう、包埋剤などの検討を行う必要がある。また、後者については、IMSのためのサンプル調整としては、これまでに世界でも例のない手法であり、安定した調整方法確立のための検討を行っている。 また、感音難聴モデルとして、マウスに対する音響外傷の条件検討として、適切な騒音の音圧や曝露時間、暴露方法の検討も同時に進めている。薬剤性内耳障害の条件も、アミノグリコシドやループ利尿薬の全身投与方法の検証を行っている。遺伝子改変動物としてGomafuノックアウトマウスやシアル酸合成酵素変異マウスの飼育とその聴力評価も進めている。 さらに、IMSのデータ解析のためのプラットフォームの整備も進めており、解析用ソフトウェアやハードウェアの準備も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上記条件検討が終了し次第、IMSを行い、サンプルの解析を行っていく。切片のサンプルからは、蝸牛の中のラセン神経節、コルチ器、血管条といった聴覚に必要な部位別のタンパク質の発現プロファイルを同定する。まずは、通常のマウスを用いて異常のない内耳でのタンパク質発現プロファイルを同定する。次に、感音難聴モデルマウスの内耳で同様のデータ収集を行ったうえで、正常マウス内耳のデータとの比較を行って、感音難聴にともなうタンパク質の発現の変化を記載することになる。 さらに、IMSのみならず、蝸牛のサンプルからより網羅的にタンパク質発現プロファイルを取得するために、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いた分析も行う。本手法で、IMSと同様に通常蝸牛と感音難聴モデル動物の蝸牛の切片やwhole mountサンプルから、網羅的なタンパク質発現プロフォイルを得たうえで、IMSのデータと合わせることにより、タンパク質発現の位置情報と発現プロファイルを有機的に解析することができると考える。 音響暴露による感音難聴モデルでは、時間の経過とともに蝸牛内でのタンパク質発現レベルの変化がおこると考えられる。同モデルの確立を行った後、音響暴露後の複数のタイムポイントでのデータ収集をIMSとLC/MSの両方で行うことにより、タンパク質からみた感音難聴発症のメカニズムの解明に迫ることのできるデータを取得できる。 これらの検討で同定したタンパク質に関しては、免疫染色を行うことによって、その発現位置や時期の確認を行い、その後はそれらのタンパク質の操作による感音難聴治療方法の検討や、iPS細胞を用いた有毛細胞の高効率な誘導方法の開発につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、共同研究者との共同作業を進めることができず、次年度使用額が生じた。来年度は、今年度十分に施行することができなかった実験条件の検討に次年度繰り越しの予算を使用する予定である。
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