本研究は、胚発生に長時間を要する動物をあえて発生研究に用いて「時間分解能」高く発生現象を観察し、聴覚器である内耳蝸牛における内耳細胞の多様性形成 のメカニズムの解明を目指す。胚発生に要する時間の種差は非常に大きいが、現在の分子生物学的な実験では、効率の良さから発生時間の短い動物が好んで使われる。しかし発生に時間を要しないことは、発生過程において一過性の発現パターンを示す遺伝子の挙動の解析や複数のシグナル経路が一部重複して発現していた場合の解析などの際の「時間分解能」の観点からは不利である。すなわち、全体としての観察には効率的であるが、時間的に局所で生じる現象の理解が困難である。近年網羅的な研究が進み特にシングルセル解析を用いた解析は、細胞一つ一つの遺伝子発現パターンを解析することが可能であり「空間的な分解能」の高い内耳遺伝子発現プロファイリングを可能にした。しかし、マウスにおいては、(進化学的な見地からは)極めて短期間に内耳発生のイベントが集中し、たとえ 連日の解析を行ったとしても、「時間的な分解能」には限界がある。本研究は、従来の研究では、認識することさえ困難であった「時間分解能」に注目し、あえて長時間の発生時間を要するモデル動物を発生研究に用いる。ゆっくりとした発生現象を解析することにより時間分解能高く発生現象を解析することが可能である。「時間分解能」高く内耳発生を解析しさらにその知見をもとに内耳細胞の多様性形成のメカニズムを従来研究とは異なる角度から観察しなおす挑戦的な研究である。 今年度は昨年度に引き続きコモンマーモセット蝸牛発生過程の単一細胞RNAシークエンス解析を行った。有毛細胞に一過性に発現する遺伝子の同定を中心に解析をすすめ複数の遺伝子を同定した。また、シングルセル解析で同定されたクラスター群の特定のため発生期モデルの遺伝子発現の局在解析を行った。
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