研究実績の概要 |
本研究の目的は,従来法の1,000分の1〜10,000分の1の細胞数で網羅的エピゲノミクスを可能とする新たなエピゲノム解析手技,ChILT法(Chromatin Integration Labeling Technology)を用い,精製・培養などの実験操作による遺伝子発現変化を最小限にとどめ,病変部の実像をより正確に反映した子宮内膜症の分子病態を理解することである。 子宮内膜症は,罹患率が高い慢性疾患であると共に,特異な性質(異所性生着や様々な発症機序仮説など),卵巣明細胞がんとの関連,などの特徴を有し,その病態解明は同疾患の治療にとどまらず広く医学・再生医学に重要な知見をもたらすと期待される。子宮内膜症の発症要因の一つとして,エピジェネティックな異常が挙げられているが,エピゲノムエピゲノム解析には90%以上純化した精製細胞が100万個程度必要なため,主に初代培養細胞あるいは株化細胞を用いた研究が行われている。一方で,子宮内膜症に限らず,培養の過程で遺伝子発現が変化し,それに伴ってエピゲノムも元の状態から変化するため,可能な限り生体試料をそのまま解析することが望ましい。そこで、本研究の少数細胞エピゲノミクス技術により,培養を行わずに病変部の状態に近い細胞を解析することで,これまで見逃されてきた子宮内膜症のエピゲノム異常を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は子宮内膜症検体を収集し,病変部から間質細胞と腺細胞を100個〜数千個程度精製回収し,ChILT法でエピゲノム解析(H3K27ac,H3K27me3,DNAメチル化)とトランスクリプトーム解析を試験的に行った。得られた結果は,すでに報告済みの培養増幅させた子宮内膜間質細胞100万個程度で行った通常のChIP-Seq解析結果(Epigenomics.2018;10:1243-1257)と比較し,それぞれの手技に特異的なデータの偏りを検証し、続く解析の補正のための基礎データとした。次年度は、引き続き詳細解析を進める予定であったが、研究代表者が新たに他機関に異動して研究を継続することとなり、かつ、異動先の研究棟の大規模修繕工事が世界情勢等の影響で大幅に遅延したため、延長を申請し、令和5年度6月以降に継続して解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,初年度の解析で同定した,内膜症で特異的なエピゲノム修飾を受けている遺伝子の発現変化を,実際の子宮内膜症サンプルと正常内膜で比較する。また同遺伝子を,子宮内膜間質細胞のin vitro脱落膜分化モデルを用い,RNAiによる当該遺伝子のノックダウンを行い,細胞機能への影響を検証する。
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