研究課題
ミニモデリングは、破骨細胞と骨芽細胞との共役(カップリング)で誘導される骨リモデリングとは異なり、破骨細胞の骨吸収に依存せずに、骨芽細胞を活性化させて骨基質合成を誘導する様式であり、成人においても、ある種の骨粗鬆症治療薬で誘導されることが知られている。現在のところ、ミニモデリングは、主に抗スクレロスチン抗体と活性型ビタミンDアナログで誘導されるが、その機序については不明な点が多い。本研究では、ミニモデリングの発生機序を解明することで、それを誘導する “ミニモデリングファクター”が存在するか明らかにすることを目標とした。令和3年度では、活性型ビタミンDアナログ(エルデカルシトール)によるミニモデリング誘導を骨細胞ネットワークとスクレロスチン抑制に焦点を当ててラットモデル実験を実施した。その際、骨の部位によって骨リモデリングが活発に行われている箇所が異なるため、ラットにエルデカルシトールを投与した大腿骨・脛骨を骨端部と骨幹端部に分けてサンプル採取し、ミニモデリングで誘導された新生骨の内部におけるスクレロスチン陽性骨細胞の割合を統計学的に検索した。その結果、骨幹端部では、通常、骨リモデリングが優位に誘導されており、一方、骨端部では骨リモデリング活性が低いことが示された。さらに、エルデカルシトール投与後におけるミニモデリングの発生箇所・頻度は、骨幹端部よりも骨端部の骨梁で多いことが示された。また、骨幹端部・骨端部の骨梁において、ミニモデリングで生じた骨基質ではスクレロスチン陽性骨細胞の割合が著しく低下していた。よって、エルデカルシトールのミニモデリング誘導作用は、スクレロスチンの作用をブロックすることで生じる可能性が高いことが強く示唆された。現在、これらの所見に基づき、論文作成中である。
2: おおむね順調に進展している
ミニモデリングを誘導する骨粗鬆症治療薬として、抗スクレロスチン抗体と活性型ビタミンDアナログであるエルデカルシトールがあげられる。スクレロスチンは骨細胞から分泌され、骨芽細胞に作用してWnt/βカテニンシグナルを阻害することで骨基質合成を抑制することが知られている。骨粗鬆症治療に用いられる抗スクレロスチン中和抗体は、スクレロスチンを抑制するため、骨芽細胞におけるWnt/βカテニンシグナルにより、骨基質合成が亢進すると推測される。このとき、骨芽細胞による骨形成は、破骨細胞からのカップリングを受けずに誘導されるため、細胞学的メカニズムとして骨リモデリングではなく、モデリングにより骨形成を行うとされている(modeling-based bone formation)。一方で、エルデカルシトールは、従来から、破骨細胞抑制が論じられており骨吸収抑制製剤として認識されていたが、研究代表者らはエルデカルシトールがモデリング、特に、ミニモデリング(骨梁におけるモデリング)の誘導を報告してきた。令和3年度の研究では、エルデカルシトール投与ラットで、ミニモデリングが誘導された骨基質内部における骨細胞のほとんどがスクレロスチン陽性を示さなかったことから、エルデカルシトールは骨細胞におけるスクレロスチン産生を抑制し、ミニモデリングを誘導する可能性が強く示唆された。ラットモデルを用いたこれらの所見は、エルデカルシトールによるミニモデリング誘導メカニズムは骨細胞ネットワークに依存することを示唆しており、今後の検索における大きな礎を築いたと判断される。
本研究計画における今後の研究課題として、「どの部位にミニモデリングが誘導されるか」という点があげられる。すなわち、ミニモデリングを誘導するのは骨細胞ネットワークによるスクレロスチン産生抑制であっても、その最初の誘導因子になり得るものを検索する必要があると考える。そこで、研究代表者は、血管内皮・周皮細胞と骨細胞・骨芽細胞間の相互作用(血管系から骨細胞ネットワークへ働きかける可能性)、および、骨基質内のメカニカルストレスによる機序(骨細胞ネットワークを伝搬するメカニカルストレスがスクレロスチン産生を誘導する可能性)を推察しており、今後の研究を遂行したいと考える。骨基質内のメカニカルストレスによる機序を踏まえた解析例として、骨粗鬆症モデルラットを作成することで、骨梁の減少や形の変化を3次元的に解析し、骨の各部位にかかるメカニカルストレスの分布を可視化する解析を行う必要性をあげている。そこにエルデカルシトールを投与することで、メカニカルストレスが集中している箇所にミニモデリングが誘導されるか検索を進めたい。また、血管系から骨細胞ネットワークへ働きかける可能性については、エルデカルシトール投与した骨において、ミニモデリング部位における骨芽細胞と血管との距離、ならびに、両者間に存在する間葉系細胞の分布を解析することで、血管と骨細胞・骨芽細胞間相互作用の可能性を検索する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (3件)
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