研究課題
山中因子 (OSKM) によって体細胞はiPS細胞にリプログラミングされるが、実際にiPS細胞にたどり着く細胞は全体ののごく一部に過ぎない。本研究では「リプログラミング過程で本来の分化経路の逆を辿った細胞だけがiPS細胞になる」という仮説のもと、ヒト正常軟骨細胞がiPS細胞にリプログラミングする過程で、どのようなトランスクリプトームの変遷を辿るかを1細胞トランスクリプトーム解析で追った。ヒト正常軟骨細胞にOSKMにLIN28とNANOGを追加した発現ベクターでリプログラミングを導くと、培養3日目には細胞群は2つの明確に異なる方向へ分かれて遷移した。1つめの方向に変化した少数の細胞では強いリプログラミング因子の発現がみられ、2日目に軟骨細胞分化のマスター遺伝子であるSOX9の発現がオフになったあとiPS細胞へとリプログラミングされた。もう1つの方向にトランスクリプトームが遷移した多数細胞は、そろって3日目にはcellular communication network factor (CCN) 1、2、4が一時的に強く誘導され、その後消退するとともに、表層軟骨細胞特異的なマーカー遺伝子、PRG4を高いレベルで発現する細胞に落ち着いた。以上の事実はリプログラミング過程でSOX9発現が決まったタイミングでオフになる、すなわち多能性幹細胞から軟骨細胞への分化を遡った細胞のみがiPS細胞となることを示しており、当初の仮説がここに裏付けられた。さらにリプログラミングに失敗した軟骨細胞は、この条件下ではCCN1, 2, 4陽性細胞を通過して表層軟骨細胞に向かうことが明らかになった。また第一の結論はSOX9強発現でリプログラミングが阻害されること(iPS干渉)によっても別の裏付けを得た。この逆遺伝学(インバース・ジェネティクス)的手法は、体細胞分化のマスター遺伝子の探索に有用と思われる。
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Journal of Cell Communication and Signaling
巻: 17 ページ: 353~359
10.1007/s12079-023-00723-4