研究実績の概要 |
近年, 菌体表層にコラーゲン結合タンパク(Cnm)および高分子タンパク抗原(PA)を保有する齲蝕原性細菌Streptococcus mutansの、非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis; NASH)発症への関与が報告された。本研究では、NASH患者より分離したS. mutansをマウスモデルに投与し、肝臓および脂肪組織への付着を調べるとともに、それら菌株の分子生物学的解析を行った。NASHと診断された患者口腔内より分離し同定したS. mutansのうち、KT3(Cnm陽性、PA陽性)株、KT2(Cnmのみ陽性)株、KT4(PAのみ陽性)株、KT44(Cnm陰性、PA陰性)株を、マウスの頸静脈より投与した。菌投与1および3時間後に採血し屠殺後、肝臓、内臓脂肪、および皮下脂肪を摘出した。各臓器におけるコロニー数を計測した。また、各供試菌のcnmおよびpacの発現量をReal-time Reverse transcription-PCR 法により調べた。さらに各供試菌の増殖速度を測定した。全ての菌株が、全ての臓器から検出され、そのうち肝臓から検出される菌量が、他の臓器と比較して最も高かった。また菌株別では、KT3株の菌量がその他の菌と比較して有意に多かった。各菌株のcnmおよびpac発現量を比較検討したところ、KT3株のcnm発現量は KT2 株と比較して有意に低く、pac発現量はKT4株より有意に低かった。またKT3株の増殖速度は、KT2株およびKT44株と比較して有意に高いことが明らかとなった。以上の結果より, cnmおよびpac発現量が低く、増殖能が高いS. mutansの方が血中に侵入した場合、より多くの菌が肝臓に侵入し付着することでNASH発症に寄与する可能性が示唆された。
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