研究課題/領域番号 |
21K19605
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石丸 直澄 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (60314879)
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研究分担者 |
新垣 理恵子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 准教授 (00193061) [辞退]
常松 貴明 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (70726752)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 自己免疫疾患 / 唾液腺 / ムチン / 糖鎖形成 / 標的臓器 / シェーグレン症候群 |
研究実績の概要 |
唾液腺から産生されるムチンには病原微生物に対して生態防御機能を果たしていることが知られている一方で、細胞内外でのムチンタンパクの機能と免疫担当細胞との相互作用に関して十分に理解されていない。本研究では、唾液腺ムチンタンパクの一つであるMUC19遺伝子に変異を有するシェーグレン症候群疾患モデルマウスを中心にして、最新のプロテオミクス、分子生物学および免疫病理学を融合した免疫プロテオミクス解析にて、ムチンタンパクの糖鎖形成(Glycosylation)の異常と自己免疫疾患の発症機序を解明することが目的である。 本研究は、唾液腺で産生されるムチンタンパクの構造あるいは機能に着目することで、免疫恒常性における新たな制御機構を見出すとともni自己免疫疾患の新しい発症機序の解明に繋がる萌芽的でオリジナリティに富んだ内容である。また、昨今のウイルス感染と唾液ムチンとの関係性にも極めて重要な新知見をもたらす可能性がある。 本年度は、シェーグレン症候群の疾患モデルマウス(NFS/sld)と健常マウス(C57BL/6)の唾液、唾液腺組織を用いて様々な解析を進めた。まず、NFS/sldマウスと健常マウスの舌下腺におけるMuc19発現をWestern Blot法により解析すると、NFS/sldマウスでのMuc19の発現がB6マウスに比較して有意に減少していた。また、Muc19及びアミラーゼ等の唾液腺機能分子の発現を定量RT-PCRでの解析でもNFS/sldマウスのMuc19 mRNA発現は有意に低下した。さらに、NFS/sldマウスとB6マウスから唾液を採取し、糖タンパク質を解析すると、NFS/sldマウスでは糖鎖の量が減少していた。以上の結果から、Muc19と糖鎖の減少がSSの発症に関連することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はシェーグレン症候群の疾患モデルの唾液腺ならびに唾液のムチンの量的、質的変化に着目した研究を進めた。研究計画ではムチンタンパクの糖鎖形成および糖鎖修飾の異常を検討する予定であったが、ムチンの量的な変化が観察されたことから、第一段階として正確にムチンの分泌量を定量化するアッセイ系の確立する実験を進めた。生化学的方法を中心としてムチンの定量化が円滑に計測できるようになった。また、舌下腺におけるMuc-19遺伝子変異がムチン分泌に関わる影響を検討することでシェーグレン症候群の標的臓器におけるムチンの役割が明らかになる可能性が示された。今年度はこの研究に関しての研究論文は発表できなかったが、来年度に向けての課題や最終ゴールが明瞭になった。 本研究では、唾液腺細胞に発現する5つのムチンタンパクのGlycosylation異常と自己免疫反応の関係性を生化学あるいは分子生物学的解析手法と免疫学的解析手法を融合した免疫プロテオミクスという新たな研究手法にて解析を進める予定である。唾液腺細胞に発現するムチンタンパクの生成から多様な糖転移酵素、糖加水分解酵素によって修飾された複雑な構造解析には質量分析装置を用いた糖鎖解析、NMRによる糖鎖解析など最新のプロテオミクス解析手法を取り入れる。シェーグレン症候群モデルマウスにおける各ムチンタンパクの遺伝子発現、タンパク発現、Glycosylation異常を網羅的に検討する。本研究では、唾液腺細胞に発現するムチンタンパクと免疫関連分子との相互作用の変化が自己免疫反応の惹起につながっている可能性を探るために、多角的な手法により疾患モデル特異的な現象を探索する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
自己免疫疾患を含め免疫難病といわれる疾患の発症・病態機序は極めて複雑であり、多角的なアプローチによる解析が必要である。これまでT細胞やB細胞を含めた各種免疫担当細胞の分化・機能異常による発症機序に関しては多くの情報が蓄積されてきたが、標的臓器の特異性を説明できる発症機序は非常に少ないのが現状である。一方で、近年のプロテオミクス研究の急激な進展により、生体内の糖鎖の多様な役割がクローズアップされており、免疫疾患においても種々の糖タンパクが病態に関与していることが示されてきている。しかしながら、自己免疫疾患の臓器特異性に着目した糖鎖研究は未開のままである。 次年度の研究推進方策として、免疫反応の標的としての唾液腺におけるムチンの役割をMuc19を中心に検討を進める予定である。特に、シェーグレン症候群モデルマウスとMHC class IIのハプロタイプの一致するDAB/1マウスを用いて、放射線照射と骨髄あるいは末梢T細胞移植実験を組み合わせたモデル系やモデルマウスのT細胞移植実験などにより、ムチンの免疫学的役割をin vivoで明らかにするとともに、分子生物学的あるいはプロテオミクス解析を応用することによる免疫プロテオミクス解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度の研究に必要なプロテオミクス研究が予定より少額で賄えたので、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度はIn vivoでの動物実験が中心となり、予定よりも多い動物実験用の費用が予想されるため、次年度研究費と合わせ使用する計画である。
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