研究課題/領域番号 |
21K19614
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 講師 (00433798)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 講師 (10453648)
壇辻 昌典 昭和大学, 歯学部, 助教 (60826634)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 唾液分泌 / Phox2b遺伝子 / 上唾液核 / チャネルロドプシン / ケージドグルタミン酸 |
研究実績の概要 |
ラット脳幹スライス標本を用い、Phox2b陽性ニューロンが顎下腺あるいは舌下腺を支配する副交感神経の節前ニューロンである上唾液核ニューロンを興奮させるかどうかを調べた。あらかじめ上唾液核ニューロンの軸索が走行する舌神経に蛍光標識物質のテトラメチルローダミンを注入して上唾液核ニューロンを標識した。矢状断の脳幹スライス標本を作製し、標識された上唾液核ニューロンからパッチクランプ記録を行った。スライス標本上にケージドグルタミン酸を灌流投与し、延髄小細胞性網様体においてPhox2b陽性ニューロンが多数存在する部位に、格子状にレーザー光照射を行ってケージドグルタミン酸からのグルタミン酸解離で同部のニューロンを刺激し、上唾液核ニューロンに興奮性の出力を送るニューロンの存在部位を探った。その結果、上唾液核背側の小細胞性網様体において、上唾液核ニューロンにシナプス応答が誘発する部位が見出された。 さらに、Phox2b陽性ニューロンに光感受性タンパク質のChRFR(光照射で活性化しニューロンを興奮させる)が発現する遺伝子改変ラットを用いて同様の脳幹スライス標本を作成し、上の実験で明らかになった延髄小細胞性網様体の部位に光照射を行ったところ、上唾液核ニューロンに興奮性のシナプス応答が誘発された。以上の結果から、上唾液核背側の延髄小細胞性網様体Phox2b陽性ニューロンは、興奮性の出力を上唾液核ニューロンに送り、唾液の分泌に関わる可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、脳幹スライス標本を使って上唾液核ニューロンを興奮させるニューロンを見つけ出し、その性質を探ることを目的としたが、Phox2b陽性ニューロンが上唾液核ニューロンを興奮させることを明らかにできた。この結果は、これまでほとんど明らかになっていなかった唾液分泌を調節する中枢神経回路について、極めて重要な知見を与えるものと考える。一方、令和3年度に予定していた唾液分泌に関わるPhox2b陽性ニューロンの遺伝子解析は、コロナ感染症拡大の影響もあり令和4年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
Phox2b陽性ニューロンに光感受性タンパク質のチャネルロドプシンが発現する遺伝子改変ラットを用いて矢状断脳幹スライス標本を作成し、上唾液核ニューロンからパッチクランプ記録を行う。現有設備の2光子顕微鏡を用いて、Phox2b陽性ニューロンに限局的な光照射を行い、上唾液核ニューロンに興奮性のシナプス応答を誘発するPhox2b陽性ニューロンを探す。応答を起こすPhox2b陽性ニューロンが見つかれば、パッチクランプ記録を行って電気生理学的な性質を探るとともに、バイオサイチン等を細胞内に注入し、樹状突起や軸索の形態を解析する。また、スライス標本上で同Phox2b陽性ニューロンが多く存在する部位を切り出し、Phox2b陽性ニューロンの遺伝子発現を網羅的に解析し、唾液分泌に関わるPhox2b陽性ニューロンに特異的に発現する遺伝子を探る。また、Phox2b陽性ニューロンに光感受性タンパク質のチャネルロドプシンが発現する遺伝子改変ラットの小細胞性網様体に光刺激プローブを挿入し、麻酔下にて光照射を行い、実際に顎下腺の排出導管から唾液が分泌されるかを確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、脳幹スライス標本を使い、Phox2b陽性ニューロンが上唾液核ニューロンを興奮させることを明らかにできたが、コロナ感染症拡大の影響などから多額の費用がかかる唾液分泌に関わるPhox2b陽性ニューロンの遺伝子解析を次年度に延期し、出張旅費の支出が無かった。このため未使用額が生じた。 以上から、令和4年度に唾液分泌に関わるPhox2b陽性ニューロンの遺伝子解析を行い、11月の北米神経科学会でこれまでの成果を発表することとし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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