研究課題/領域番号 |
21K19643
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 達哉 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (60456936)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | サイトカイン / 栄養素 |
研究実績の概要 |
適量の栄養素を摂取することは、感染症予防において極めて重要である。しかしながら、先進国においては老化に伴う食欲減退や過度の食事制限により、途上国においては食糧難により、栄養不足に陥ることで感染症のリスクに曝されている人々が少なからず存在する。本研究では、免疫応答における栄養素の効果に着目し、栄養不足により病原体に易感染性となる理由を解き明かすことを目的とする。とりわけ、「栄養摂取と感染防御の関係を炎症性サイトカインIL-1beta発現の視点から読み解く」ことを目指して、解析を進めている。先行研究により、自然免疫機構であるToll-like receptorおよびインフラマソームの活性化に応じたIL-1betaの産生に、ある特定のアミノ酸が関わっていることを見出している。R3度は、当該アミノ酸を分解する酵素を培地に添加するとプライマリーマウスマクロファージにおけるIL-1betaの転写がほとんど誘導されず、IL-1betaの産生が大きく減弱することを見出した。また、分解酵素を加えることにより、IL-1betaと同じ受容体に作用するIL-1alphaの産生も減弱することが明らかになった。さらに、マウスの腹腔に分解酵素を投与すると、アルミニウムアジュバントおよび抗原の投与により誘導される抗体の産生が阻害されることを見出した。一方で、当該アミノ酸だけを含まない特殊な培地を作製し、標準の培地と比較する実験を行い、当該アミノ酸は栄養素に対する応答において中心的な役割を果たす分子として知られているmTORの活性には影響を与えず、新たな機構を介してIL-1betaの産生を制御していること示唆するデータを得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プライマリーマウスマクロファージにおいて、特定のアミノ酸を除去すると炎症性サイトカインであるIL-1betaの産生が減弱することを見出した。また、既知のものとは異なる栄養素感知機構が介在することを見出した。さらに、当該アミノ酸を分解する酵素を投与すると、アジュバントおよび抗原の投与に応じた抗体産生が低下することを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)アミノ酸を感知してTLRを介したIL-1betaの転写誘導を促進する機構を同定する。代表者はこれまでに、培地中の当該アミノ酸の欠如がマウスマクロファージにおけるTLRを介したIL-1betaの産生誘導を減弱させることを見出している。そこで、当該アミノ酸の欠乏がTLR依存的な免疫関連分子の発現に与える影響をプロテオミクスにより包括的に解析する。IL-1betaおよび発現パターンが変化した分子のプロモーターに関する情報をもとに、当該アミノ酸の影響を受ける転写因子を同定する。続いて、当該転写因子の活性化に関わるシグナル伝達経路が当該アミノ酸の影響を受けるか否かを検証する。転写因子NF-kappaB、AP-1、Nrf-2、HIF-1alphaおよびその活性化に関わるシグナル伝達分子について、活性、発現量、細胞内局在などの観点から解析する。 (2)当該アミノ酸の分解を促す酵素の治療効果を検証する。代表者はこれまでに、マウスの腹腔に分解酵素を投与すると、アルミニウムアジュバントにより誘導される抗体の産生が阻害されることを見出している。そこで、分解酵素を投与することによって、マウスの生体内においてもIL-1betaや類似した制御を受けるIL-1alphaの産生が抑制されるか否かをRT-qPCRやELISAなどの手法を用いて解析する。また、アルミニウムアジュバントによる液性免疫の誘導に関わるプロスタグランジンE2(PGE2)についても解析する。さらに、抗原特異的CD8陽性T細胞などの出現や活性をフローサイトメトリーやELISAにより測定し、細胞性免疫の誘導についても解析する。これらの解析により、当該アミノ酸がマウスの生体内において獲得免疫の確立にどのように寄与しているかを検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、アミノ酸の感知に関わる分子の遺伝子改変マウスを作製することで、当該アミノ酸が生体内で果たす役割を解析する計画を立てていた。研究が進むにつれ、当該アミノ酸を選択的に分解する酵素を投与することにより、当該アミノ酸が生体内で果たす役割を解析することが可能との見込みが立ったため、解析手法を切り替えた。遺伝子改変マウスを用いる場合には生まれてから成体になり実験を行うまでの長期間にわたる影響を見ることになるが、分解酵素を用いる場合には任意のタイミングで当該アミノ酸が欠乏した効果を評価できるため、この実験モデルは有用であると考えている。遺伝子改変マウスの作製を行わなかったことで、1年目の研究費の使用額は当初の見込みから少なくなった。一方で、安定して購入可能なC57BL/6などの野生型のマウスに分解酵素を投与する実験を早いペースで行うことになるため、2年目の研究費の使用額は当初の見込みから増加するものと考えている。また、選択的とは言われているものの分解酵素が予想しない副反応を起こす可能性を否定できないため、2年目はプロテオミクスなどの解析を当初計画より徹底して行い、丁寧に検証する予定である。
|