適量の栄養素を摂取することは、感染症予防において極めて重要である。しかしながら、先進国においては老化に伴う食欲減退や過度の食事制限により、途上国においては食糧難により、栄養不足に陥ることで感染症のリスクに曝されている人々が少なからず存在する。本研究では、免疫応答における栄養素の効果に着目し、栄養不足により病原体に易感染性となる理由を解き明かすことを目的とする。とりわけ、「栄養摂取と感染防御の関係を炎症性サイトカインIL-1beta発現の視点から読み解く」ことを目指して、解析を進めてきた。まず、自然免疫機構であるToll-like receptorおよびインフラマソームの活性化に応じたIL-1betaの産生に、ある特定のアミノ酸が関わっていることを見出した。当該アミノ酸を分解する酵素を培地に添加すると、プライマリーマウスマクロファージにおけるIL-1betaの転写がほとんど誘導されず、IL-1betaの産生が大きく減弱した。また、当該酵素を加えることにより、IL-1betaと同じ受容体に作用するIL-1alphaの産生も減弱した。RPMI培地から特定のアミノ酸を除去することによっても、IL-1beta産生の大幅な減弱およびIL-1alpha産生の限定的な減弱が確認された。よって、アミノ酸はIL-1を介した自然免疫応答に大きな影響を与えるものと考えられる。一方で、当該酵素を加えても、炎症性サイトカインであるTNFの産生には変化が見られなかった。このことは、培地中のアミノ酸の要求性が炎症性メディエーターごとに異なることを示している。さらに、マウスの腹腔に当該分解酵素を投与すると、アルミニウムアジュバントおよび抗原の投与により誘導される抗原特異的な抗体の産生が阻害されることを見出した。今後は抗体産生におけるアミノ酸の役割についても解析を進めていく。
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