研究課題
胎盤は母体と胎児を結び,血液を介して栄養や代謝物,ガスの交換を行う精密な組織である。胎盤組織の恒常性は,母体の健康状態と胎児の成長発育に大きな影響を与え,その障害は,母体の高血圧症や肝臓・腎臓の機能障害,胎児の成長発育阻害に直結する。歯周病は歯周組織のみならず全身の健康状態に影響を及ぼす炎症性疾患である。妊娠中の母体が歯周病に罹患すると,母体の重篤な疾患や胎児の成長発育阻害を誘導する。そのため,歯周病(原菌)が胎盤組織にどのような障害を及ぼすかを明らかにすることは,母体の健康と胎児の成長発育に理想的な口腔環境を築くために重要である。本研究の目的は,歯周病が胎盤組織に及ぼす影響とそのメカニズムを解明することであった。歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』を蛍光標識し,妊娠マウスの腹腔内または尾静脈に投与した。生体において蛍光標識物を検出する機器(IVIS spectrum)を用いて,胎盤への移行について調べた。『細胞外分泌小胞』を長期投与した妊娠マウスの胎盤組織の形態変化について調べるとともに胎盤組織由来の細胞外小胞を採取してプロテオーム解析を行った。歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』は胎盤および胎児へと移行し,その成長発育を阻害した。投与群の胎盤では母体側の血管の走行の乱れや面積の低下が認められた。投与群の胎盤組織由来の細胞外小胞サンプルでは,血管新生に関わる因子VEGFR1の発現が有意に低下していた。ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』で処理したところ,VEGFR1の発現と遊走能の低下が認められた。以上の結果より,歯周病原菌は『細胞外分泌小胞』を介して胎盤の血管形成阻害を誘導し,胎盤・胎児の成長発育を阻害することと考えられる。母体の健康と胎児の成長発育には口腔内の状態が深く関与することが示唆された。
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