研究課題
乳児期における栄養環境は,子の将来の体質や健康,疾病罹患リスクに影響すると考えられる.乳児期の主要なエネルギー源は脂質であるが,その脂質組成については,必ずしも詳細が明らかになっていなかった.そこで,本研究では,母乳の網羅的な脂質成分組成を解析し,それにより母乳の特徴的な脂質プロファイルを明らかにした.さらに,その脂質成分プロファイルを決定する酵素の探索とその特徴の解明に取り組んだ.本研究における母乳の脂質プロファイル解析において,ヒト母乳成分組成は,以下の理由で乳児にとって非常に利用効果が高く,恒常性や健康維持に重要な生理活性脂質を多く含有することが明らかとなった.① 遊離脂肪酸が多く,消化機能の未熟な乳児にとって効率が良い ② 生理活性脂質の材料となる多価不飽和脂肪酸(PUFA),特にn3系脂肪酸が豊富 ③ 炎症収束性脂質メディエーターが非常に多く,子の免疫機能の調節やアレルギー予防などが期待できる.さらに,一般的な食品や生体組織では低レベルであるものの,抗炎症効果が期待される脂肪酸代謝産物が多く存在することを見出した.さらに脂質成分組成を決定する酵素を探索するために,乳汁中脂質組成がヒト型であるマウスを対象として関連酵素の網羅的な発現動態を調査し,細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)アイソザイムが,乳腺の発達や泌乳に相関することを見出した.そのアイソザイムのリコンビナント酵素を用いた酵素活性測定の結果,リン脂質より,不飽和脂肪酸の切り出しによく働くことが分かった.よって,それが母乳の脂質の質を決定する主要な酵素の一つであることが示唆された.さらに,母親の食事による母乳中の不飽和脂肪酸含有量が変化するのかを明らかにするために,授乳婦を対象として,油脂摂取の介入研究を行い,不飽和脂肪酸の付加摂取により,母乳中脂肪酸含有量の変化を明らかにした.
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