研究課題/領域番号 |
21K19681
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
内藤 忠相 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50455937)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 新型コロナウイルスワクチン / 弱毒生ワクチン / 組換えウイルスワクチン / 中和抗体 / 抗原複合型ワクチン |
研究実績の概要 |
本研究では、まず始めにSARS-CoV-2のSpike蛋白質に含まれる受容体結合領域(Receptor binding motif: RBM)の全71残基にアミノ酸変異を導入した変異Spike遺伝子ライブラリーを作製し、ACE2受容体との結合および抗原変異に関与するアミノ酸部位の網羅的同定を試みる。 2019年に中国の武漢で分離されたSARS-CoV-2/Wuhan-Hu-1株のSpike遺伝子を取得し、蛋白質発現プラスミドにクローニングした。プラスミドは、制限酵素処理によりRBM領域を交換できる構造とし、人為的なアミノ酸変異を伴う変異型RBM遺伝子を簡便に挿入可能な設計とした。従来のSARS-CoV-2市中流行株の変異Spike蛋白質のRBMに見出されたアミノ酸変異に加えて、これまでにアミノ酸置換が導入されていないRBM内の残基にも変異を導入した変異Spike遺伝子の人工合成を行い、RBMの全残基に変異を導入したプラスミドライブラリーの構築を順調に進めている。 本研究では、非増殖型組換え生ワクチンの母体ウイルスとして水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus: VSV)を使用する。そのため、Spike蛋白質を粒子表面に発現するシュードタイプVSVを合成するには、材料として増殖欠損型のVSV種株の作出が必要となる。これまでに、ウイルス人工合成用のプラスミドセットを用いた逆遺伝学的手法により、増殖欠損型VSV種株の合成プロトコルを確立した。 増殖欠損型VSV種株および前項で作製した変異Spike発現プラスミドを用いて変異Spike搭載VSVの作出にも着手しており、RBM全残基における抗原変異部位の特定を目的とした変異Spike搭載VSVライブラリーの作製を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Spike蛋白質のRBM内の全アミノ酸に変異を導入したSpike遺伝子ライブラリー作製については、人工遺伝子合成技術を活用して順調に取り組んでいる。当初の計画通り変異Spike搭載VSVライブラリーの作出プロトコルを確立し、課題遂行にかかる実験材料の確保を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
変異Spike搭載VSVライブラリーを完成させ、RBMを十数残基ごとに区分けすることでプールしたウイルス集団をマウスに免疫する。そして、各変異Spike蛋白質を中和し、かつ野生型Spike蛋白質も中和できる単クローン抗体セットを単離することで「中和抗体ライブラリー」の作製を行う。作出した各単クローン抗体は、抗原変異を起こした変異Spike蛋白質に対して中和活性を発揮すると考えられる。そこで、野生型Spike搭載VSVをコントロールウイルスとして、各単クローン抗体が中和活性を示す抗原変異Spike蛋白質を単離する。そして、Spike蛋白質における可変的な全ての抗原変異部位の情報を備えたエピトープセットを決定する。 続いて、TET-ONシステム(ドキシサイクリン添加による遺伝子発現制御システム)のプロモーターDNA配列の下流に、各抗原変異Spike遺伝子を組込んだプラスミドを作製する。CRISPR-Cas9システムを用いてシュードタイプVSV合成用細胞(BHK/T7-9細胞)のゲノムにプラスミドを組込み、抗原変異型Spike蛋白質を誘導発現する細胞クローン、すなわち全抗原変異Spike蛋白質を単一のVSV粒子に搭載できるウイルス合成用細胞株(BHK/T7-9/変異Spike発現細胞)を樹立する。そして、BHK/T7-9/変異Spike発現細胞にVSVゲノム発現プラスミドを導入後、培地へのドキシサイクリン添加により、抗原変異型Spike蛋白質をエンベロープにもつ「複合抗原搭載型シュードタイプVSV」を作製する。 この組換えVSVが、あらゆる抗原変異株に対する中和抗体セットを誘導可能な「ユニバーサルワクチン」となりうるかどうかをマウスを用いた免疫付与実験により検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Spike遺伝子ライブラリーの作出に必要となる変異Spike遺伝子の人工合成DNAは、外注によって取得している。令和3年度は、本課題の確実な遂行にかかる条件検討実験に使用する一部セットの変異遺伝子のみを取得した。そのため、計上していた全変異遺伝子セット取得分の研究費については次年度使用分とした。令和4年度において、予定していた全変異遺伝子セットの人工合成DNAを取得し、研究期間全体として計画通りに研究費を使用する。
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