新型コロナウイルスSARS-CoV-2の感染予防に資する新規組換えワクチンの開発を試みる。具体的には「感染性は失活しているが免疫原性を保持するSARS-CoV-2の変異型スパイク抗原」を単離し、組換えワクチンの母体株として水疱性口内炎ウイルスに搭載させることで非増殖型の組換えウイルスワクチンを作出する。SARS-CoV-2粒子表面に発現するスパイク蛋白質は、細胞受容体ACE2との結合が引き金となってウイルス粒子と細胞の膜融合を誘導して感染を成立させ、またSARS-CoV-2感染を抑制する中和抗体の標的抗原にもなる。 SARS-CoV-2武漢株スパイク蛋白質の受容体結合領域(RBM)の各残基(438-508アミノ酸)をアラニンに置換した変異スパイク蛋白質発現プラスミドライブラリーを作製して培養細胞に導入し、スパイク蛋白質とACE2受容体との結合による細胞融合活性が促進または抑制される変異を探索することで、感染性を制御するRBMにおけるアミノ酸の同定を試みた。その結果、細胞融合が著しく抑制される5種類のアラニン変異型スパイク蛋白質(R454A、C480A、C488A、L492A、F497A)を単離した。それら全ての変異型スパイク蛋白質は、膜融合活性の促進に必須である宿主プロテアーゼの切断を受けないことが明らかとなった。今回に見出したスパイク蛋白質における5種類のアミノ酸残基はオミクロン株においても保存されており、SARS-CoV-2全般における受容体結合または膜融合活性の機能維持に関与する可能性が示唆された。 本研究により、感染性が失活する可能性が高いRBMの単一アミノ酸置換による変異スパイク蛋白質の単離に成功した。今後、各変異スパイク蛋白質を搭載する組換えウイルスを作製して免疫原性を調べることで、有効かつ副反応が軽い新規ワクチンの開発に展開する予定である。
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