研究課題/領域番号 |
21K19690
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前島 洋 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (60314746)
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研究分担者 |
真先 敏弘 帝京科学大学, 医学教育センター, 教授 (00585028)
高松 泰行 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (40802096)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 再生医学 / 脳卒中 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、遺伝子発現の調整機構として可塑的遺伝子発現の促進が期待されるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の投与により可塑的脳内環境を提供し、中枢神経軸索再生に際して軸索伸長阻害因子を発現するオリゴデンドロサイトに代わり末梢神経由来シュワン細胞を損傷域に移植し、エピジェネテイクス制御下における軸索再生と機能回復効果を検証することである。本年度は下記の2点について研究を推進した。 1.移植用シュワン細胞の作成:レンチウィルスベクターを用いたGFP蛍光能、Hygromycin耐性能の遺伝子導入を培養ラットシュワン細胞に対して実施した。Hygromycin溶液を完全培地において遺伝子導入細胞の複数回のselection、cloning等を進めてGFP蛍光付与シュワン細胞の培養を進め、これを移植用細胞として継代、凍結保存し、細胞移植の準備を進めた。 2.シュワン細胞に対するHDAC阻害剤の効果検証:HDAC阻害剤sodium butyrateの複数濃度投与下(0.1, 1.0, 5.0, 10.0, 50.0mM)においてラットシュワン細胞を培養し、神経栄養因子、ミエリン関連因子、アポトーシン関連因子の遺伝子発現を定量するとともに細胞生存率を計測した。その結果、sodium butyrate高濃度下においては神経栄養因子、ミエリン関連因子の発現増強が顕著に生じる一方で、アポトーシス関連因子の増強と細胞生存率の低下が顕著に進むことを確認した。一方、1.0mMにおいては細胞栄養因子、ミエリン化関連因子の増強に対して細胞死への影響は少なく、sodium butyrateの投与量検討の基礎所見を得た。更に、各発現修飾が薬剤除去後に継続するかを検証することにより、生体への移植前におけるHDAC阻害剤の前処置の有効性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度内に実施予定であった研究内容は下記の3項目であった。 1)レンチウィルスベクターを用いたGFP蛍光能、Hygromycin耐性能の遺伝子導入を行う。Hygromycin溶液を完全培地において遺伝子導入細胞の複数回のselection、cloning等を進めてGFP蛍光付与シュワン細胞の培養を進め、これを移植用細胞として継代、凍結保存する。また、ヒストンアセチル化酵素阻害剤(HDAC)がシュワン細胞における遺伝子発現、分化に与える影響を精査するため、培養シュワン細胞を対象とするHDAC投与の影響に関するin vitro実験を並行して進める。 2)脳出血モデルラットの作成:脳出血モデルの作成は、深麻酔下状態にてマイクロインジェクションポンプを用いて損傷側線条体、内包域に血管基底膜を破壊する酵素であるcollagenaseを微量注入することにより作成する(ICHモデル)。 3)シュワン細胞の移植とその効果検証:ICHモデル作成後、GFP蛍光付与したシュワン細胞を脳出血モデル作成と同様にステレオタキシックシステムにより脳経損傷部に注入移植し(同種移植)、行動分析を通して機能回復への影響を精査した後、脳における移植細胞の定着と機能化についてGFPをマーカーとする組織化学的分析、生化学的分析を進める。 1)2)は予定通りに実施して植細胞の準備、レシピエントICHモデル作成に至った。一方、3)のシュワン細胞のICHモデルへの移植には本年度は至らず、次年度に持越すこととなった。このため、研究計画はやや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1)本年度実施のin vitro実験の継続として、sodium butyrate(NaB)投与下でのシュワン細胞における遺伝子発現の修飾がNaB除去後、更に細胞継代後における修飾継続性について検証する。これによりin vivo実験におけるNaB投与による移植細胞のエピジェネティクス修飾に加えて、移植前の細胞の前処置によるエピジェネティクス修飾の可能性を併せて模索する。 2)次年度に持越された脳出血モデルラットへの移植実験を開始する。左内包域に血管基底膜を破壊するコラゲナーゼを脳内インジェクションシステムにより微量注入し、左内包出血右片麻痺モデルを作成する。脳卒中術後にモデル作成同様の手法でGFP導入したシュワン細胞を損傷部位に注入移植を行う。はじめに細胞移植がトレッドミル運動を主とする脳卒中後のリハビリテーションに対しての機能増強効果を検証する。神経学的障害評価・運動機能評価を実施し、脳サンプルを対象に前年度同様の神経栄養因子、ミエリン関連因子、アポトーシス関連因子等の発現修飾等の生化学的検証に加え、移植細胞マーカーGFP蛍光観察等を加えた組織化学的検証を実施する。更に、シュワン細胞移植に加えてNaB投与下におけるトレッドミルを用いた運動療法を実施することにより、シュワン細胞移植とNaB投与がリハビリテーション効果に与える影響を精査する。以上より、細胞移植に基づく脳卒中再生リハビリテーションに対する薬理的エピジェネテイクス修飾による脳内環境制御の可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はシュワン細胞の移植実験に関して、移植細胞の作成に留まり、ラットへの細胞移植は次年度に持越された。これに伴い共同実験を検討していた分担者の執行予定額が執行されず、次年度使用額が生じた。次年度は同額をシュワン細胞移植実験に伴う消耗品費に補完しての執行を予定している。
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