研究課題/領域番号 |
21K19701
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50375458)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | インドキシル硫酸 / 腎不全 / 芳香族炭化水素受容体 / 筋萎縮 / 尿毒症性サルコペニア / ポリフェノール |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)では、病態が進行すると筋萎縮や筋力低下が生じるが、その発症機構は不明の点が多い。そこで本研究では尿毒素の一種であるインドキシル硫酸(IS)に着目した。ISは核内受容体である芳香族炭化水素受容体AhRに結合し、細胞障害を誘発することが示唆されているが、生体内での作用、特に骨格筋における作用についての検証は未だ十分ではない。よって初年度は培養細胞にISを負荷してその影響を検討するとともに、生体での検討のために腎不全モデルマウスの作成を行った。 実験には人臍帯血管内皮細胞HUVECおよびマウス筋芽細胞株C2C12由来の筋細胞を用いた。これらの細胞に0.1~1.5mMまでのISを負荷した結果、0.5mM以上のISを負荷すると、AhRの標的遺伝子であるCYP1A1やCYP1B1遺伝子の発現が有意に上昇し、併せて血管内皮細胞では炎症関連遺伝子の発現増強が確認された。また形態学的に筋細胞では筋管径が細くなる傾向が見られた。 腎不全モデル作成ではアデニン誘発性腎不全モデルを使用することとし、既報を参考に予備検討として、重量比で0.1%もしくは0.2%のアデニンを混合した飼料を2週間マウスに投与した。しかし0.1%では腎不全は認められず、一方、0.2%投与では一部のマウスが死亡したため実験を中断した。その後、複数の予備検討を行い、0.2%を1週間投与ののち、0.1%で継続投与する条件が適当であると判断した。このアデニン投与群では血清BUN、クレアチニン濃度の上昇を認め、腎臓では組織学的に尿細管の拡張や刷子縁の消失、炎症細胞の浸潤、線維化の増強などを、mRNA発現ではTNFαやIL-6等の炎症性遺伝子発現の上昇を認めた。AhRの標的遺伝子については、Cyp1b1遺伝子は有意な上昇を認めたが、Cyp1a1遺伝子は予想に反してアデニン投与群で有意に低下していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、細胞や病態モデルマウスを用い、腎臓及び骨格筋でのインドキシル硫酸(IS)によるAhR活性化とこれに伴う病的変化を明らかとするとともに、食品因子によるAhRの活性化制御を介して、これらの病的変化を抑制しうる食品因子の探索を行うことである。 本年度は培養細胞を用いた実験系において、ISの投与が筋細胞においてAhRの標的遺伝子の発現を増加させ、組織学的な筋萎縮を生じる可能性を見出すことができた。さらに動物実験では、予備検討段階ではあるが、アデニン誘発性腎不全モデル作成のための条件を設定でき、さらに本モデルにおいて、腎臓の組織学的な変化や遺伝子発現変化の詳細について検討することができた。なお結果の項で述べた通り、Cyp1a1遺伝子は予想に反してアデニン投与群で有意に低下していたが、既存の研究において、炎症存在下ではAhRがCyp1a1遺伝子発現に対して負の制御を行う可能性があることが報告されており、本研究で認められた所見と矛盾しない。 このように研究は概ね計画通りに進行しており、また部分的ではあるものの、ISが腎臓や骨格筋においてAhRを介して直接作用する可能性を示す事ができていることから、研究は予定通りに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績概要に記載した項目毎に、以下のように研究を推進していく。 近年、種々の食品ポリフェノールがAhRと結合し、アゴニストもしくはアンタゴニストとして作用する可能性が報告されている。そこで筋細胞においてISで活性化すると考えられるAhRに対し、抑制的に作用する食品ポリフェノールを探索する。評価系にはプロモーターアッセイを応用する。AhR結合配列を含むプロモーターを挿入したレポーター遺伝子をマウス骨格筋由来細胞株C2C12に導入し、ISと共に食品ポリフェノールを負荷し、レポーター活性を測定してISによるAhR活性化を抑制しうるポリフェノールを同定することを試みる。我々はこれまでにいくつかのフラボノイドが、HUVECにおいてはISの作用を抑制する可能性を見出している。そこで初回スクリーニングにはこれらを含めたフラボノイド類を中心に、20種類程度を選択して検討に用いる。 動物実験においては、本年度設定した条件をもとに腎臓および骨格筋において詳細な検討を行う。具体的にはマウスに0.2%アデニン食を1週間投与ののち、0.1%アデニン食で6週間継続投与し、通常食を摂取したマウスとの間で以下の項目を評価する。組織学的にはHE染色やアザン染色、蛍光免疫染色などの特殊染色を用い、組織学的な変化の詳細を比較する。また各組織の遺伝子発現においては、AhRの標的遺伝子発現、炎症・酸化ストレス関連遺伝子、線維化・筋萎縮関連マーカー遺伝子の発現を検討する。またこれらの反応に関わるシグナル分子の活性化評価(NFκB等)、細胞内活性酸素種(ROS)の定量なども合わせて行う。さらに可能であれば、細胞を用いたスクリーニング系において AhRの抑制候補として選択されたポリフェノールを腎不全モデルマウスに経口投与し、上記の各項目を検討することにより、投与したポリフェノールの効果を評価していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由としては以下の通りである。 1)本年度は参加を予定していた国内学会、国際学会のすべてが、COVID19蔓延防止対策のためにオンライン開催となり、予定していた旅費を使用することがなかった。2)動物実験においては、モデルの確立のために予備実験的な実験を行うことが多く、使用した動物の頭数が実際の想定よりも少なくなり、その結果、動物購入や飼養等にかかる費用を含む動物実験経費が予定よりも少額ですんだ。さらに動物飼育のための補助員の人件費を見込んでいたが、COVID19感染拡大のため雇用が行えず人件費をほとんど使用しなかった。3)本年度は研究費の配分が7月であったことから、研究費使用開始が7月以降となり、さらに所属大学においては便宜上年度会計を1月末で閉めるため、研究費の実質使用期間が半年余となった。このため1年分の研究予算として計上した額よりも実際の使用額が下回った これらの次年度使用額については主に、来年度における学会での成果発表のための旅費や、動物実験における飼養関連費用および消耗品購入費用にあてて使用する予定である。
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