研究課題
肥満人口が世界的に増加する中、肥満に伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や肝細胞癌(HCC)の罹患率が増加しているが、NASHの重症化や癌化の機序は不明であり、治療薬は存在しない。そこで本研究では、肥満につながる現代人特有の生活習慣である「脂質の過剰摂取」、「体を動かさない生活様式」、および「自律神経バランスの乱れ」の複合効果がNASH/HCCの誘発の原因である可能性を検証するため、これら三要因を併せ持つ高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスの代謝機能を解析した。NASHの診断に用いられるNASスコアや線維化面積を指標に肝臓の病理像を定量的に解析した結果、雄性オレキシン欠損マウスおよび卵巣摘出雌性オレキシン欠損マウスに長期間高脂肪食を負荷するとNASHが誘発されることが示された。一方、視床下部オレキシン神経の薬理遺伝学的な活性化やオレキシンの脳室内投与はNASHの原因となる肝臓内の小胞体ストレスを防止するための適応機構を急性的に活性化した。また、高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスの脳室内にオレキシンを5日間連日投与すると、肝臓の小胞体ストレスと慢性炎症が軽減された。この改善効果は自律神経遮断薬の共処置で消失した。高脂肪食負荷オレキシン欠損マウスで認められた重度の肥満、インスリン抵抗性、および肝臓の炎症は高脂肪食ヘテロ欠損マウスでは認められなかった。これらの結果から、オレキシンの中枢作用は自発運動の促進を介して肥満を防止するとともに、自律神経を介して脳‐肝連関を促進し、肝臓の小胞体ストレス適応を向上させることでNASHやHCCの発症を防止することが明らかになった。したがって、脳のオレキシン神経系はNASH/HCCの予防・治療法を開発するための重要な標的であると考えられる。
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Cell Reports
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