研究課題/領域番号 |
21K19708
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 和生 京都大学, 農学研究科, 教授 (80213148)
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研究分担者 |
山崎 英恵 龍谷大学, 農学部, 教授 (70447895)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 嗜好性 / 報酬系 / 扁桃体 / 心拍変動 |
研究実績の概要 |
脳報酬系特異的な神経光刺激系の構築を試み、β-エンドルフィンを放出するPOMC神経系にハロロドプシンを発現するマウスの両側側坐核に光ファイバーを設置し、595nm 光刺激により報酬系神経活動を抑制しうる実験系を構築した。一定時間の絶水後、甘味(サッカリン)、塩味(NaCl)、酸味(酢酸)、苦味(塩酸キニーネとα-イソ酸)、うま味(グルタミン酸ナトリウム)および脂肪エマルションの各溶液をマウスに摂取させる条件を設定した。キニーネ溶液は忌避されるが、ビールの苦味であるα-イソ酸については摂取量に個体差があり、あまり忌避しないマウスがいることがわかった。嗜好性の高いサッカリン溶液および脂肪エマルション摂取時に光刺激により報酬系神経活動を抑制すると、サッカリン摂取には影響がなかったが、脂肪エマルションについては摂取量が減少することが明らかとなった。前者はエネルギー源とはならず、後者はエネルギー獲得に適した溶液であることが摂取行動変調の原因である可能性が考えられるが、更に被験動物数を増し、統計処理可能な検体数を確保する必要がある。 ヒト実験において試料として鮒鮨を被験者に摂取させたが、9回の摂取で嗜好は形成されなかった。主観的な嗜好では有意な嫌悪は観察されず、鮒鮨単体を試料として用いることは適切ではないと考えられた。次に苦味を持つ食品としてノンアルコールビールを用いた。コントロール群、ノンアルコールビール摂取群に加えて、苦味食品と組み合わせて嗜好性の高い鶏唐揚げを同時に摂取する群を設けた。測定は週1回とし、期間は5週間とした。試料の嗜好性と摂取量は期間経過とともに増大した。摂取により副交感神経活動の上昇が観察され、その傾向は唐揚げ同時摂取で強くなることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 脳報酬系特異的な神経光刺激系の構築:POMC神経系にハロロドプシンを発現するマウスの両側側坐核に光ファイバーを設置し、595nm 光刺激により報酬系神経活動を抑制しうる実験系を構築した。 (2) 溶液摂取時の報酬系刺激:一定時間の絶水後、甘(サッカリン)、塩(NaCl)、酸(酢)、苦(塩酸キニーネとα-イソ酸)、うま味(グルタミン酸ナトリウム)および脂肪エマルションの各溶液をマウスに摂取させる条件を設定した。キニーネ溶液は忌避されるが、α-イソ酸については摂取量に個体差があり、あまり忌避しないマウスがいることがわかった。嗜好性の高いサッカリン溶液および脂肪エマルション摂取時に光刺激により報酬系神経活動を抑制すると、サッカリン摂取には影響がなかったが、脂肪エマルションについては摂取量が減少することが明らかとなった。本実験はまだ個体数1の結果に過ぎないため、統計処理可能な被験動物数を確保する必要がある。 (3) 忌避/嫌悪性食品摂取時のヒト生理的状態変化と嗜好変容の相関性:試料として鮒鮨を被験者に摂取させたが、9回の摂取で嗜好は形成されなかった。主観的な嗜好では有意な嫌悪は観察されず、鮒鮨単体を試料として用いることは適切ではないと考えられた。次に苦味を持つ食品としてノンアルコールビールを用いた。コントロール群、ノンアルコールビール摂取群に加えて、苦味食品と組み合わせて嗜好性の高い唐揚げを同時に摂取する群を設けた。測定は週1回とし、期間は5週間とした。試料の嗜好性と摂取量は期間経過とともに増大した。摂取により副交感神経活動の上昇が観察され、その傾向は唐揚げ同時摂取で強くなることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
光刺激により報酬系神経活動を亢進させるマウスについて、十分な産仔数が得られない状況である。このため、繁殖マウスペアにいったん野生型を導入して繁殖力を改善する。十分な実験個体が得られる状態で、嗜好性の低い溶液摂取時に報酬系神経活動を亢進させる実験を行う。 引き続き嗜好性の高い溶液摂取時に報酬系神経活動を抑制する実験を行い、統計処理可能な実験数を確保する。 光遺伝学的な実験に用いるマウスの確保が手間取った場合に備えて、薬理学的な処理として、味溶液を摂取した後に神経活動を変調する薬品を投与(例として苦味溶液を摂取した直後にドーパミン作動性神経活動を亢進するノミフェンシンを投与するなど)し、溶液への嗜好性がどのように変化するかを検討する実験を加える。 ヒトでの苦味溶液に対する嗜好性の形成については順調に検討が行えているため、更に被験者数を増し、昨年度に観察できた現象が再現可能であることを証明する。動物実験での苦味溶液に対し唐揚げ摂取が報酬効果に相当しているが、報酬価の異なる食品の摂取により苦味溶液への嗜好性形成が異なるかなど、実験系の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者龍谷大学山崎英恵教授の実験において、被験者への謝金、および試薬購入は本助成金を使用せずに研究を遂行したために次年度使用額が生じた。次年度は被験者謝金、試薬、心拍変動測定と体温測定にそれぞれ用いる消耗品のプローブの購入に充てる予定である。
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