視床下部の食欲中枢機能は栄養情報を脳に伝えるホルモンにより制御されている。我々は最近、腸管ホルモンGIPの視床下部を介したホルモン感受性制御機構を解明し、視床下部のホルモン感受性が腸脳連関を介した内因性・外因性リガンドの制御下にあること示した。そこで本研究では、食由来成分とレプチンの視床下部における相互作用の実態解明を目指した。 初年度では独自の視床下部器官培養系やマウス個体を用い、食品由来成分の中から視床下部レプチン感受性を制御する食成分の同定を進めた結果、6アミノ酸残基ペプチドYHIEPVを同定した。 そこで最終年度では、YHIEPVによるレプチン感受性制御機構の解明を目指した。YHIEPVを肥満マウス個体に投与することにより、視床下部においてレプチンシグナルの阻害因子として知られているSOCS-3や炎症性サイトカインのmRNA発現量が減少することを明らかにした。低分子量Gタンパク質Rap1は高脂肪食摂取により活性化が誘導され、レプチン感受性障害を惹起する細胞内分子である。器官培養系を用いて、Rap1経路の活性化によるレプチン依存性STAT3リン酸化の阻害がYHIEPVで前処理することによりブロックされることを確認した。さらに脳内における高脂肪食誘導Rap1活性化がYHIEPVにより抑制できることを明らかにした。したがって、YHIEPVが経口投与により、視床下部のRap1活性化を抑制することでレプチン感受性を改善することを見出した。 研究期間全体において、食品タンパク質を経口摂取することにより消化管において派生する食由来シグナルが視床下部レプチン感受性を改善する、食による視床下部レプチン感受性の制御実態を解明することができた。本研究を端緒として、食成分がシグナル分子として視床下部機能制御を行っているという新しい概念を提示し、食シグナル学という新しい研究領域を創設していきたい。
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