研究課題
本研究では、豊かな環境飼育といった環境強化による疾患発症の抑制効果に関わる因子の解析を、複数の異なる環境による差異を利用して進め、精神疾患の予防あるいは克服のための新たな方法論の構築と候補分子の同定を目指してきた。我々は、統合失調症やうつ病、心的外傷後ストレス障害のリスク因子である神経ペプチドPACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)の遺伝子欠損マウスの解析を進め、本マウスの示す行動学的異常や海馬神経新生の障害、神経細胞のスパイン密度の低下などの神経形態学的異常が、幼少期の生育環境により大きく影響を受けることを明らかにした。そのなかで、幼若期の環境強化飼育により、PACAP遺伝子欠損マウスの情動行動異常や認知機能障害が発症しないことを見いだしたが、同期間、飼育ケージ内に輪回し車(running wheel)を入れることによる自発的運動の促進だけでは効果がみられなかった。一方、輪回し車を含まない豊かな環境負荷によって、通常の環境強化と同程度の病態発症予防効果が得られた。このメカニズムの解明のため、網羅的遺伝子発現解析を実施し、いくつかの候補因子について再現性を検討した結果、輪回し車を設置した環境と比較して、豊かな環境飼育による転写因子NPAS4ならびにEGR2の発現増加が認められた。また、PACAP遺伝子欠損マウスの海馬CA1領域において、スパイン密度が低下しており、この低下は輪回し車を設置した環境では影響を受けず、豊かな環境飼育および輪回し車を含まない豊かな環境飼育により抑制されることを明らかにした。このことは、環境強化による異常行動発現の抑制が、海馬樹状突起スパイン密度低下の改善と相関することを示しており、今後、スパインの制御機構に関わる分子に着目した解析が必要になると考えられた。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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