研究実績の概要 |
今年度は片手到達運動による力場学習を運動学習課題とし、経皮的迷走神経刺激(tVNS)がこの運動学習に与える影響を調べた。 被検者は健常成人で、tVNS群が9名、疑似刺激群(sham群)が8名であった。tVNS群では経皮的に迷走神経刺激するために左側の耳珠に電気刺激を与えた。また、sham群では迷走神経が走っていない左側の耳たぶに電気刺激を与えた。電気刺激は到達運動開始から3秒の間、感覚閾値の200%、25Hz、パルス幅50μsecで与えられた。被検者はphantom装置のレバーを利き手で握り、レバーの動作を反映するカーソルを10cm前方へのターゲットに到達させる到達運動を実施した。カーソルのスタート位置からターゲットまでの直線に対して垂直右方向に速度依存の力場が加わるforce field条件での到達運動を150回行った。 force field条件の学習を定量的に評価するために、カーソルが力場により左右方向に曲げられた変位の最大値をエラー振幅として算出した。force field条件開始直後5回のエラー振幅値の平均をinitial、終了直前5回のエラー振幅値の平均をfinalとし、エラー振幅値の改善率(=(initial-final)/initial))を評価指標とした(この値が1に近いほどエラー振幅値が減少し、力場の学習が促進したことを反映する)。 片手到達運動による力場学習課題に対するtVNSの効果を調べるため、改善率について対応のない2標本t検定を行い群間比較したところ統計的に有意差が認められた(tVNS vs. sham, 0.77 ± 0.03 vs. 0.60 ± 0.05; mean±SE, P<0.05)。このことは、tVNSが新規の力学的制約に対する到達運動の学習を促進することを示唆するものである。
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