研究課題/領域番号 |
21K19722
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
河上 敬介 大分大学, 福祉健康科学部, 教授 (60195047)
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研究分担者 |
伊東 佑太 名古屋学院大学, リハビリテーション学部, 准教授 (30454383)
紀 瑞成 大分大学, 福祉健康科学部, 准教授 (60305034)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋機能 / 筋力トレーニング / オートファジー / マウス |
研究実績の概要 |
本年度は、まず筋萎縮モデルマウスに対して、低強度の負荷運動を実施し、運動前後のタンパク質合成系、分解系シグナル分子の活性化について検証した。 筋萎縮モデルマウスには、一般的に用いられる2週間の尾部懸垂よりも、4週間の尾部懸垂の方が適切であることが考えられた。その理由を以下に述べる。非尾部懸垂群に比べた尾部懸垂群の筋線維横断面積は、2週間の尾部懸垂で63%、4週間の尾部懸垂で67%と、有意な低値を示した。Sandona(2012)の報告では、マウスのヒラメ筋CSAは13週間の宇宙飛行で65%に減少したことから、筋萎縮はTS2週間までに急速に進行し、その後の進行は少ないと考えられた。よって、4週間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスは、臨床で理学療法の対象となる寝たきりの高齢者のモデルとして使用できる可能性があると考えられた。 この4週間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスに対して低強度の負荷運動の量を決定するために、運動強度と運動持続時間との関係を検証した。その結果、電気刺激(50 Hz、0.2~0.4 mA)を5秒に1回下腿後面に与え等尺性収縮を行わせることにより、運動開始時のトルクが最大トルクの20%となることが判明した。また、本刺激を18分間続けることができることが判明した。 以上の結果より、4週間の尾部懸垂によるモデルマウスに対して、最大トルクの20%の負荷運動を実施し、負荷運動直後及び1時間後のタンパク質合成系と分解系シグナル分子の活性化について検証した。タンパク質合成系のシグナル分子としては、p-Akt/t-Aktを、と分解系シグナル分子としてはLC3Ⅱ/LC3Ⅰ、p62を検証した。これまでの報告と同様に、運動後のp-Akt/t-Aktの上昇傾向が認められた。また、運動1時間後の分解系活性の上昇傾向が認められたが、今後詳細な検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、一般的に筋萎縮モデルとして用いられる2週間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスは、臨床で理学療法の対象となる寝たきりの高齢者のモデルとしては不適切な可能性があることが判明したことが挙げられる。非尾部懸垂群に比べた2週間、4週間の両尾部懸垂の筋線維横断面積は、有意な低値を示した。4週間から13週間に免荷期間を延長しても筋萎縮は進行しないことを示唆する報告があり、筋萎縮は尾部懸垂2週間までに急速に進行し、その後の進行は少ないと考えられた。 さらに、4週間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスに対して、低強度の負荷運動の量を決定できたことが挙げられる。運動強度と運動持続時間との関係を検証した結果、運動開始時のトルクが最大トルクの20%で足関節の等尺性底屈運動を実施すると、運動を18分間続けられることが判明した。 また、今後さらなる検証が必要であるものの、4週間の尾部懸垂によるモデルマウスに対して、最大トルクの20%の負荷運動を実施するとタンパク質合成系の活性とともに、分解系シグナル分子の活性化にも変化があることが判明したことも挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、4週間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスに対して、低負荷運動を実施することによる、運動直後のタンパク質合成系と分解系シグナル分子の活性の変化の検証を行う。負荷運動は、昨年と同様に電気刺激を用い、運動開始初期トルクが最大トルクの20%の足関節等尺性底屈運動を18分間実施する。必要があれば、さらに低強度の負荷運動をさらに長い時間実施するグループをつくる。タンパク質合成系や分解系シグナル分子の活性は、昨年と同様にp-Akt/t-Akt、LC3Ⅱ/LC3Ⅰ、p62を用いる。また、低負荷運動による機能面の変化として、最大底屈トルク値で評価する。一方、高齢マウスに対して低強度の負荷運動を行う実験を開始する。高齢マウスに対して、萎縮モデルと同様の負荷運動もしくは自発的な運動を実施し、タンパク質合成系や分解系シグナル分子の活性、機能面への影響を検証する。さらに高齢マウスにおいては、エネルギーサプライや代謝産物のクリアランスに重要な、毛細血管やリンパ管の形態応答も検証を始める。組織学的には、抗CD31抗体を用いて毛細血管を、抗LIVE1抗体を用いてリンパ管を染色し、量や大きさの変化を追う。また、生化学的には、毛細血管やリンパ管新生に関わるシグナル分子の活性や不活性、mRNAの増減などを指標に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により海外化学薬品の輸入が十分にできない現状が続いている。本研究に使用する抗体や阻害剤の中にも、国内在庫が枯渇し、数件の業者に相談したが手に入らないものがあった。次年度も引き続き、販売業者の国内在庫を頻繁に問い合わせ、次年度使用額は当該薬品購入に用い、研究計画を遂行する予定である。
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