研究課題
本研究の全体構想は,骨格筋の肥大応答における筋サテライト細胞(MuSC)の役割とその制御機構の解明である.2021-2022年度には,課題1「非損傷性の運動による筋肥大におけるMuSCの役割」および課題2「伸張性収縮トレーニング誘引性の筋肥大におけるMuSCの役割」として,MuSCの欠損(Pax7-DTA)マウスを導入し,トレーニングによる筋肥大応答を検討する予定であった.しかしながら,Pax7-DTAマウスの個体復元がうまく運ばず,2022年度中に,本学での繁殖が開始できたが,介入を開始するには至らなかった.そこで2021-2022年度には,事前準備として,筋肥大モデルの妥当性の検討を行い,一般的に用いられている協働筋切除法で誘引される筋肥大が,生理学的な適応を超えた病理学的な不適応を引き起こすことを明らかにした.これらの研究成果を背景に,2023年度には,我々が以前に,ラットにおいて確立した電気刺激による筋肥大モデルの妥当性を検討した.その結果,ラットと同様の伸張性収縮トレーニングを4週間マウスに負荷しても,筋肥大が得られないばかりか,単位断面積当たりの筋力(固有張力)が低下することが明らかとなった.また,課題3「MuSCによる筋肥大応答機構におけるマクロファージの役割」について,野生型マウスにクロドロン酸内服リポソームを投与し,マクロファージの欠失を試みたが,体重減少や筋萎縮とともに固有張力の低下が引き起こされ,運動介入を試みることができなかった.そこで,伸張性収縮後の回復過程におけるMuSCの役割を検討する実験を新たに考案した.結果,驚くべきことに,MuSCの有無に関わらず,損傷性の伸張性収縮後の筋力回復に差異が観察されなかった.これらの知見から,伸張性収縮による骨格筋の適応反応において,MuSCが不可欠ではないことが示唆された.
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