最終年度は,変形性膝関節症初期の患者と健常高齢者の計測を継続して実施した.MRI撮影の結果から,骨病変の有無と骨病変部位に応じて対象者を分類し,それぞれにおける歩行のバイオメカニクス解析から運動学的特徴の抽出を行った.結果として,大腿脛骨関節に骨病変を有する被験者においては,歩行中の膝関節屈曲モーメントの最大値は大きくはないものの,歩行中を通した変化量は小さく,荷重応答領域が限局化している可能性が明らかとなった.このことは,歩行中に特定部位に積算される圧縮応力が増加することを意味し,前年度までに実験動物モデル研究において確認した骨病変発生メカニズムと部分的に一致する.また,変形性膝関節症患者の歩行において特徴的に観察される外側動揺の発生要因ともなりうる膝関節内反モーメントは,骨病変を有する被験者群で低い傾向を示した.この結果は,骨病変を有する被験者群では,関節表層での側方不安定性に関連する剪断力が増加していない可能性を示唆するものである.すなわちこれらの被験者では,標準的な軟骨変性から病変が開始される変形性膝関節症の発生メカニズムとは異なる過程を経て,病変発生に至っている可能性があり,これまでの通常の診断プロセスでは,運動学的にも画像診断学的にも,病変初期の異常を検出できない可能性がある.現時点では被験者数が十分ではなく,推測の域は出ないものの,本研究データを蓄積していくことで,本研究構想の目的である,変形性膝関節症発症の兆候をいち早く検出し,軟骨変性を予防する新たな治療戦略の確立に貢献することが期待される.
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