研究課題/領域番号 |
21K19728
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
亀井 康富 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (70300829)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 白筋 / 赤筋 / DNAメチル化 / エピジェネティクス / 遺伝子発現 / 転写調節因子 |
研究実績の概要 |
骨格筋はヒトの体重の40%を占める大きな組織であり、運動・エネルギー消費・糖利用などに役割を果たしている。骨格筋は、解糖系が主体で瞬発的運動に適した白筋(タイプ2B・2A線維)と、脂質利用が主体で持久的運動に適した赤筋(タイプ1線維)に分けられる。しかしながら、白筋・赤筋を決定するメカニズムは不明な点が多い。本研究では、(1)白筋の筋幹細胞(筋サテライト細胞)を規定する因子が存在する、(2)DNAメチル化により筋線維の赤筋化が生じる、という作業仮説を提唱する。白筋・赤筋形成の分子機序に関して、筋サテライト細胞の遺伝子発現とエピジェネティクス(DNAメチル化)で説明する試みである。そして運動能力(瞬発力・持久力)に関するスポーツ科学や、サルコペニア(加齢による白筋の萎縮)等の予防・改善の健康科学に関する分子基盤の手がかりを得ることを目的とする。本研究は、白筋・赤筋形成における骨格筋線維に特異的な筋サテライト細胞の役割を明らかにするとともに、DNAメチル化の生理学的意義の解明に取り組む。本研究の成果は、サルコペニア(加齢による筋萎縮・筋機能低下:白筋が萎縮しやすい)の予防・改善のための創薬のターゲットの手がかりとなることが期待される。また体力科学研究(運動能力:持久力・瞬発力)の発展の観点からも有用である。本年度の研究実績として、網羅的遺伝子発現解析により白筋のサテライト細胞で機能しうる転写因子類の候補を見つけた。また遺伝子改変マウスにおけるDNAメチル化酵素Dnmt3aの発現増加により赤筋化の表現型の解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、白筋と赤筋形成の分子機序解析のため、(1)骨格筋の幹細胞である筋サテライト細胞に着目し、白筋・赤筋に特異的な筋サテライト細胞の性質を解析する。そして、筋線維タイプを規定する因子を探索する。また(2)DNAメチル化に着目し、DNAメチル化酵素Dnmt3aを骨格筋で過剰発現あるいは欠損した遺伝子改変マウスの表現型解析と赤筋化の分子機序解析を行う。 (1)本研究では白筋・赤筋由来の筋衛星細胞を単離して網羅的遺伝子発現解析を行い、白筋由来の筋衛星細胞で発現が高い転写因子類を見出し、筋衛星細胞が白筋線維に分化する機構を明らかにすることを目指した。その結果、Tbx1, Cited1, Hoxa1, Six2の4つの転写因子類の遺伝子発現が白筋由来の筋衛星細胞で高いことがわかった。筋衛星細胞が白筋線維に分化するのにTbx1が必要であることが示唆された。 (2)また本研究ではDnmt3aのさらなる役割を理解するために骨格筋特異的にDnmt3aを過剰発現させたDnmt3a-Tgマウスを作製し、その表現型を解析した。遺伝子発現の網羅的解析を行い野生型のマウスと比べて発現が増加した遺伝子の探索を行ったところ、Dnmt3a-TgマウスではMyh7など遅筋の構成遺伝子が増加していたことが観察された。また、筋断面の免疫組織化学染色を行ったところヒラメ筋において遅筋を構成するTypeⅠ線維の割合が顕著に増加していることが観察された。Dnmt3aは骨格筋において、Myh7遺伝子の発現やType-Ⅰ線維の数を増加させることによって、骨格筋の遅筋化に少なからず働きをもっていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)白筋・赤筋の筋サテライト細胞を規定する因子に関する検討 白筋で多く発現する転写因子類を、白筋を規定する因子の候補として解析する。白筋(長趾伸筋)由来の筋サテライト細胞にsiRNAでノックダウンさせて、赤筋・白筋に特徴的な遺伝子発現(ミオシン重鎖など)や組織染色像が変動するか否かを解析する。また、解糖系の活性等、機能的な変化を観察する。また赤筋(ヒラメ筋)由来の筋サテライト細胞にレトロウイルスで白筋を規定する因子の候補を過剰発現(単独、または複数の組み合わせ)させて、同様の項目を観察する。そして、これらの転写因子が白筋の性質の決定に関与する可能性を検討する。さらに、ヒラメ筋、長趾伸筋以外の骨格筋の筋線維由来の筋サテライト細胞に関しても発現・機能を解析し、他の部位の白筋に一般化できるか検討する。 (2)DNAメチル化による赤筋化・タイプ1線維化に関する検討 DNAメチル化酵素・Dnmt3aの遺伝子改変マウス(過剰発現・欠損)の骨格筋の赤筋・白筋表現型(遺伝子発現、組織染色)を観察する。また機能的表現型(持久運動能力、呼吸商、ミトコンドリア活性など)を運動生理学・生化学的手法で解析する。筋サテライト細胞(白筋・赤筋由来)にDnmt3aを過剰発現・ノックダウンさせ、赤筋化・白筋化が生じるか、遺伝子発現やミオシンの染色によって解析する。これらサンプルの網羅的なDNAメチル化、遺伝子発現解析を行う。一般的にプロモーターのDNAメチル化は遺伝子発現抑制されるため、メチル化と発現が逆相関した遺伝子をメチル化標的遺伝子の候補とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は網羅的遺伝子発現のデータ解析に注力した。コンピューターを使った解析で試薬代が不要であったため次年度使用額が生じた。次年度はRT-qPCRなどによって解析を進めていく。
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