研究実績の概要 |
骨格筋はヒトの体重の40%を占める大きな組織であり、運動・エネルギー消費・糖利用などに役割を果たしている。骨格筋は、解糖系が主体で瞬発的運動に適した白筋(タイプ2B・2A線維)と、脂質利用が主体で持久的運動に適した赤筋(タイプ1線維)に分けられる。しかしながら、白筋・赤筋を決定するメカニズムは不明な点が多い。本研究では、(1)白筋の筋幹細胞(筋サテライト細胞)を規定する因子が存在する、(2)DNAメチル化により筋線維の赤筋化が生じる、という作業仮説を提唱する。(1)本研究では白筋・赤筋由来の筋衛星細胞を単離して網羅的遺伝子発現解析を行い、白筋由来の筋衛星細胞で発現が高い転写因子類を見出し、筋衛星細胞が白筋線維に分化する機構を明らかにすることを目指した。その結果、Tbx1, Cited1, Hoxa1, Six2の4つの転写因子類の遺伝子発現が白筋由来の筋衛星細胞で高いことがわかった。筋衛星細胞が白筋線維に分化するのにTbx1が必要であることが示唆された。(2)また本研究では骨格筋特異的にDnmt3aを過剰発現させたDnmt3a-Tgマウスを作製し、その表現型を解析した。遺伝子発現の網羅的解析を行い野生型のマウスと比べて発現が増加した遺伝子の探索を行ったところ、Dnmt3a-TgマウスではMyh7など遅筋の構成遺伝子が増加していたことが観察された。また、筋断面の免疫組織化学染色を行ったところヒラメ筋において遅筋を構成するTypeⅠ線維の割合が顕著に増加していることが観察された。Dnmt3aは骨格筋において、Myh7遺伝子の発現やType-Ⅰ線維の数を増加させることによって、骨格筋の遅筋化に少なからず働きをもっていることが示唆された。本研究の成果は、サルコペニア(加齢による筋萎縮・筋機能低下:白筋が萎縮しやすい)の予防・改善のための創薬のターゲットの手がかりとなることが期待される。また体力科学研究(運動能力:持久力・瞬発力)の発展の観点からも有用である。
|