研究課題/領域番号 |
21K19732
|
研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
若尾 宏 獨協医科大学, 医学部, 教授 (10280950)
|
研究分担者 |
杉本 智恵 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (60469955)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 気道炎症 / MAIT細胞 / 新規マウスモデル / Thサイトカイン / PAS染色 / BALF / アルテルナリア / 2型自然リンパ球 |
研究実績の概要 |
MAIT細胞は自然免疫と適応免疫細胞の両方の性質を持ち、自然免疫と適応免疫とを橋渡しする。この性質からMAIT細胞はアレルギー性気道炎症に関与することが予想されていたが、従来の実験用マウスにはMAIT細胞がほとんど存在せず、その機能解析が遅れていた。今回、我々はMAIT細胞が遺伝的に豊富なマウスをMAIT細胞由来iPS細胞から作製し(以下、Va19マウスという)、これを用いてアレルギー性気道炎症モデルにてMAIT細胞がアレルギー性気道炎症に及ぼす効果を検討した。 Va19マウスと野生型マウス8C57BL/6)にかびの一種であるアルテルナリアを投与して気道炎症を誘導したところ、野生型マウスに比してVa19マウスでは肺胞洗浄液液(BALF)中の好酸球、2型自然リンパ球の数が減少していた。しかし、マクロファージ、好中球、リンパ球の数には差異がなかった。BALF中のサイトカイン産生を調べたところ、Va19マウスでは野生型マウスに比してThelper 2(Th2)型サイトカインであるIL-4, IL-5, IL-13 の産生量が減少していた。また、肺組織をヘマトキシン/エオシン染色したところ、野生型マウスでは多数の免疫細胞の浸潤並びに気道平滑筋の厚み増大が見られ、典型的な気道炎症を示した。一方、Va19マウスにおいてはこれら細胞浸潤や筋の肥大化が抑制されており、炎症が和らいでいた。さらにPAS染色を行なったところ、野生型マウスでは杯細胞の過形成・異形成と多量のムチン蓄積が見られたのに対して、Va19マウスではこれら表現系が抑制されていた。以上から、MAIT細胞のマウス内での増加はアルルテナリアによって誘導されるアレルギー性気道炎症を抑制することが明らかにされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では獨協医科大学にて独自に開発したVa19マウスを用いてアレルギー性気道炎症のモデルを作成した。Va19マウスは従来知られているノックアウトやトランスジェニックマウスの範疇に属さない新規モデル動物であり、人為的遺伝子欠損や遺伝子強制発現を伴わずにヒトと同程度、あるいはそれ以上の頻度でMAIT細胞を有することを特徴とする。これまでの研究から喘息などのアレルギー性気道炎症にMAIT細胞が関与していることは予想されていたが、従前研究に使用されてきたマウスではMAIT細胞がほとんどいない、という本質的問題によって、その解析は不可能であった。これに対して、今回我々はVa19マウスを用いることによりMAIT細胞がアルテルナリアによって誘導されるアレルギー性気道炎症を抑制することを証明することができた。また、Va19マウスからMAIT細胞を分取・精製することによって、アレルギー性気道炎症を憎悪することが知られている2型自然リンパ球に対する影響や相互作用を明らかにしようとしている。この解析によってMAIT細胞-2型自然リンパ球軸がアレルギー性気道炎症において決定的な役割を果たしているのか、否かが明らかにできる。このように、我々の研究は現在、MAIT細胞がアルテルナリアによって誘導されるアレルギー性気道炎症を抑制するのか、その機序を解析できるところまで到達している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下の2点を中心に行う。 2型自然リンパ球はアレルギー性気道炎症において重要な機能を発揮することから、MAIT細胞による当該炎症抑制はこの細胞を介している可能性が高い。事実、これまでの研究でアルテルナリアによるて気道炎症を起こしたVa19マウス由来のBALF中では野生型マウスに比べて2型自然リンパ球数が堅調に減少していた。これはMAIT細胞によって2型自然リンパ球のサイトカイン産生能と増殖が制御されている可能性を示唆する。そこでこの仮定を実証するため、以下の2種の実験を行う。 1 精製MAIT細胞と精製2型自然リンパ球との共培養:Va19マウスからMAIT細胞を精製し、野生型マウスから精製した2型自然リンパ球と共培養する。この時、2型自然リンパ球の増殖因子としてアラーミンであるIL-33を添加し、IL-33依存的な2型自然リンパ球の増殖がMAIT細胞によって阻害されるのか否か、明らかにする。 同時に培養上清中のサイトカインを定量し、2型自然リンパ球から産生されるTh2型や炎症性サイトカイン産生への影響を調べる。 2 精製2型自然リンパ球と精製MAIT細胞を用いたアレルギー性気道炎症のモデルの再構築:上記実験によりMAIT細胞が2型自然リンパ球の増殖並びにサイトカイン産生能を阻害することが確認できたら、これら細胞を免疫細胞を欠失する高度免疫不全マウスに養子移入して気道炎症を惹起する。コントロールとして2型自然リンパ球のみを入れてIL-33で刺激したマウス群、一方2型自然リンパ球とMAIT細胞を養子移入してIL-33で刺激したマウス群を用いる。 評価法はBALF中のサイトカイン量、並びに肺組織の炎症像、肺への2型自然リンパ球並びにMAIT細胞蓄積、である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該研究は当初、研究代表者と研究分担者の2名で行う予定であったが、学内の他の研究室が研究内容に興味を抱き、一緒に研究を行うようになった。 研究遂行に必要な費用のうち、初年度は他の研究室からの支援が相当程度あり、研究代表者らが予算措置して額を100%使用することがなかったため。しかし、次年度はこの支援が見込まれず、研究経費は全額当該研究費より支出する予定である。
|