研究課題/領域番号 |
21K19734
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤井 進也 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40773817)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 音楽 / 感動 / 音楽演奏 / 心拍 / 同調性 / リアル / 遠隔 |
研究実績の概要 |
ヒトに感動を与える演奏は、どのようにして生まれるのか。本研究の目的は、ライヴ演奏における表現者と鑑賞者の心の動きの時間的同調性を解明することである。本年度、コロナ禍の状況を踏まえ、リアル会場と遠隔会場における音楽ライヴ演奏の感動に違いはあるのか、リアル/遠隔会場におけるライヴ演奏鑑賞時の表現者と鑑賞者の心の動きの比較実験を行なった。2021年11月に、慶應義塾大学日吉キャンパス藤原洋記念ホールにて、プロのアーティスト/シンガーソングライターによるアコースティック弾き語り形式のライヴ演奏鑑賞実験を実施した。リアル会場となる日吉キャンパス藤原洋記念ホールから、ライヴ演奏をリアルタイム配信し、遠隔会場となる慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスシータ館のスクリーンに上映した。ウェアラブル生体環境センサーを用いて、ライヴ中のアーティスト、及び、リアル/遠隔会場における鑑賞者の心拍データ等を記録した。独自作成したスマホアプリを用いて、リアル/遠隔会場の鑑賞者のライヴ中の主観的感動度についても記録した。本年度、得られた心拍時系列データについて予備分析を行った。リアル/遠隔会場で得られたデータのそれぞれについて、演奏者と鑑賞者の心拍時系列の相関の程度、及び、鑑賞者同士の心拍時系列の相関の程度を定量化した。リアル/遠隔会場の心拍時系列データの相関値を比較したところ、リアル会場は遠隔会場に比べて相関の程度が高い傾向がみられた。これらの予備分析の結果をまとめ、2022年8月に実施される北米音楽認知学会(Society for Music Perception and Cognition: SMPC)に演題登録し、査読の結果、口頭発表に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、初年度(2021年度)に実験準備と予備実験、2年目(2022年度)に本実験と予備分析、3年目(2023年度)に本分析と成果発表を行う計画であった。また、当初の計画では、リアル会場でのみ実験を行うことを予定していた。本年度、精力的に研究を推進した結果、初年度となる2021年度中に、アコースティック弾き語り形式のライブ音楽鑑賞実験を実施することができた。また、コロナ禍の状況を踏まえ、リアル会場と遠隔会場における音楽ライヴ演奏の感動の差異を比較し得る貴重なデータを取得することができた。特にリアル/遠隔会場の双方でデータ取得できたことは大きな成果であり、表現者と鑑賞者の心の動きの時間的同調性をリアルと遠隔で比較できる点で、貴重かつ挑戦的なデータを取得できたと考えている。また、初年度となる2021年度中に、心拍時系列データの予備分析を実施することができた。リアル/遠隔会場の心拍時系列データの相関値を比較したところ、リアル会場は遠隔会場に比べて相関の程度が高いという興味深い知見を得た。これらの予備分析の結果をまとめ、国際学会(SMPC)に演題登録した。査読の結果、口頭発表に採択され、2022年8月に成果発表する予定である。これら現在までの進捗状況を俯瞰し、当初の計画以上の成果を得ることができたと判断したため、「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年8月に米国オレゴン州で開催される北米音楽知覚認知学会(SMPC)で発表に向けて、さらにデータ分析を推進する。予備分析では、鑑賞者同士の心拍時系列データの相関関係に焦点を当てたが、今後は本研究の主目的である表現者と鑑賞者の心の動きの時間的同調性についてもさらに分析を進める。また、予備分析では主に心拍時系列データの相関分析に焦点を当てたが、時系列同士の同調・同期性の計算方法については他にも位相コヒーレンスに着目した分析など様々な時系列分析の手法がある。これらの分析手法を用いてさらに心拍データの分析を進めると共に、ライヴ中の鑑賞者の主観的感動度や録音データ、アンケートデータについても分析を進める。北米音楽知覚認知学会(SMPC)での発表に演題登録した際、査読者から貴重な指摘を得ることができた。具体的には、今回観測された鑑賞者の心拍データの時系列変化は、果たして集団でライヴ鑑賞した際に特異的に観測される現象なのか、それとも、個人で音楽鑑賞した際にも一般的に観測され得る現象なのか、という指摘である。この査読者の指摘を踏まえ、個人での音楽鑑賞における心拍動態との比較など、追加実験の実施も視野に入れ、今後さらに研究を推進していく方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な機材を借用することができ、機材に要する経費を予定よりも削減できたため、次年度使用額が生じた。今後、本研究推進のためには、データ分析、成果発表、追加実験が必要である。これらを効率的に実施するために、データ分析用のパソコンやソフトウェアの購入、成果発表のための経費、追加実験やデータ分析のための研究補助者雇用費、専門家謝金等の経費が必要であり、これらの用途で次年度以降使用する計画である。
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