高齢者の筋萎縮や筋力低下(サルコペニア)は老年病症候群や死亡率・介護リスクと密接な因果関係を持つ。現在の診断基準である筋量・筋力の低下が表在化してからでは高齢者の筋機能向上や介入意欲の維持は難しく,サルコペニアに至る前に生じる筋の機能低下の早期発見と介入が健康寿命延伸の重要課題である。本研究は,これまで不可能であった運動中の筋(活動筋)の循環・代謝調節機能の非侵襲的評価を可能にする新規生体光計測技術の確立に挑戦し,加齢による活動筋機能変化のスペクトラムを明らかにすることを目的として行った。2023年度は,開発した組織血流・酸素代謝率の非侵襲計測装置Combined diffuse correlation - near-infrared spectroscopy (DCS-NIRS)を活用し,地域に自立居住する若年~高齢者(20~90歳代の230名)に対し運動中の筋血流応答・酸素代謝率の計測を完了した。血管機能を検査する一過性虚血試験のほか,サルコペニアの評価(AWGS2019; Chen et al 2020)に用いられる手の掌握運動と,歩行機能や転倒リスクに関係する下肢底背屈運動について,それぞれ前腕・下腿の筋血流応答を計測した。性別・年齢・基礎疾患・全身筋量・筋力・運動習慣等の基本情報も同時に取得し,現在はデータ解析を進めている。研究期間全体を通じて,これまで不可能であった運動中の筋(活動筋)の循環・代謝調節機能の非侵襲的評価を可能にする新規生体光計測技術の確立に成功し,開発した計測装置については特許出願に至ることができた。今後はデータ解析をさらに進め,加齢による活動筋機能変化のスペクトラムの解明ならびに筋量・筋力が低下する前に高齢者のサルコペニア・リスクを早期発見する新規バイオマーカーの確立を目標とした研究を行う。
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