研究課題
本研究の目的は、膵臓ガンにおいて転写因子NRF3が乳酸産生を誘導する可能性を解析し、その阻害が与えるT細胞への影響を解明し、免疫チェックポイント阻害療法を奏功させる新たな治療法を開発する点にある。今回、上記仮説のもとに検証した結果、残念ながら膵臓がんにおける乳酸合成酵素LDHAの発現において、NRF3は転写誘導するが、タンパク質レベルの発現は増加させないことがわかった。これはLDHAタンパク質自体が正常時から高発現しているためと考察した。そこで研究の適応を拡大し、膵臓の腫瘍悪性化に関わるNRF3の機能解析を行った。NRF3をノックダウンさせたヒト膵臓がん由来PANC-1細胞を免疫不全マウスの膵尾に移植したところ、腫瘍が増大しないことを発見した。一方、通常の細胞培養では、NRF3ノックダウン細胞は増殖し移植に供することが出来た。すなわち、この知見はがん微小環境中での膵臓がん細胞の増殖にNRF3がきわめて重要な機能をもつことを強く意味する。そこで膵臓がんにおけるNRF3の標的遺伝子を探索するマイクロアレイ解析を行った結果、ガン細胞の増殖あるいは線維化に関わる結合組織成長因子CTGFを同定した。NRF3はCTGF遺伝子の上流に存在するARE配列に直接結合しCTGF遺伝子の発現を誘導することを確かめた。さらにNRF3-CTGF経路は膵臓がん細胞の浸潤・遊走能を亢進することも確認した。現在、NRF3-CTGF経路について、上記移植で形成された腫瘍を組織学的に解析している。以上、本研究の成果は、当初の仮説は反証されたものの、NRF3による膵臓の新たな腫瘍悪性化機構を発見することができた。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
iScience
巻: 26 ページ: 106045~106045
10.1016/j.isci.2023.106045
Cell Reports
巻: 42 ページ: 111906~111906
10.1016/j.celrep.2022.111906
The Tohoku Journal of Experimental Medicine
巻: 259 ページ: 1~8
10.1620/tjem.2022.J090
https://akobayas.wixsite.com/genetic-code-lab
https://medsystems.doshisha.ac.jp/