最終年度である2022年度は、計画通り、サルコメア長を可視化した状態での力学計測を行い、サルコメア長の分布を計測した。ウサギの大腰筋から摘出した単一の筋細胞を位相差顕微鏡下に組み込んだ力学計測装置にセットし、ウェル内の水溶液をカルシウムイオンを含んだものにすることで筋収縮を誘発した。主要な測定として、サルコメア長が不均衡になると言われている伸張性収縮後の等尺性収縮時のサルコメア長の分布と、コントロール条件として、伸張性収縮を行わない、純粋な等尺性収縮中のサルコメア長の分布を計測し、比較した。その結果、いずれの条件においてもサルコメア長の分布はみられたものの、分布の程度は条件間で差はみられなかった。伸張性収縮の後の等尺性収縮は、純粋な等尺性収縮と比較して発揮筋力が大きいことが知られており、この理由として、伸張性収縮時に生じるサルコメア長の不均衡が挙げられていたが、これらは理論から導き出された推定であり、それを実験的に計測すると、推定とは異なる結果が得られた。つまり、上述の伸張性収縮後にみられる力発揮能力の増強は、サルコメア長の不均衡ではなく、それ以外の要因に由来することが示唆された。また、理論的に考えると、下行脚時にサルコメア長にバラツキが存在すると、長いサルコメア(弱いサルコメア)は、ひきのばされることでより長く、反対に短いサルコメア(強いサルコメア)は、縮むことでより短くなるため、サルコメアの分布が二峰性になっていくと考えられているが、そのような分布はみられなかった。
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