研究課題/領域番号 |
21K19753
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
上住 聡芳 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 特任講師 (60434594)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 運動 / 間葉系前駆細胞 |
研究実績の概要 |
運動は身体に様々な有益効果をもたらす。運動による身体適応の代表に骨格筋の機能強化があり、筋力・筋量が増し、エネルギー代謝機構のリプログラミングも起こる。運動による筋の代謝リプログラミングは、心血管系疾患や糖尿病といった生活習慣病予防に極めて有効であり、また、体力・持久力が向上することからサルコペニアやフレイルといった老年症候群に対しても有効である。しかし、運動を感知し骨格筋の適応のトリガーとなる機構、言い換えれば、運動が直接的に影響する最も上流の部分は依然として謎に包まれている。 研究代表者は、筋の脂肪化の起源となる間葉系前駆細胞を世界に先駆け同定することに成功し(Nat Cell Biol, 2010)、その後、本細胞が筋の線維化や骨化の起源になることも明らかにしている(J Cell Sci, 2011; Plos One, 2013)。しかし、本細胞の生理的な存在意義については不明であった。そこで、研究代表者らはこの問いに答えるべく、間葉系前駆細胞欠損マウスを作製し、欠損マウスの表現型の解析から、本細胞が筋の恒常性維持に必須であることを明らかにした(J Clin Invest, 2021)。間葉系前駆細胞が生理的に重要な役割を果たしているというこの結果を受け、間葉系前駆細胞が運動による適応にも関与しているのではないかという仮説に至り、運動時における間葉系前駆細胞の役割について調べた。その結果、間葉系前駆細胞は運動による筋の肥大適応に必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動時における間葉系前駆細胞の役割について調べるため、まず、間葉系前駆細胞欠損マウス(J Clin Invest, 2021)に、代償性筋肥大モデルを適応した。効率的な筋肥大には、筋幹細胞である筋衛星細胞が増殖し、筋衛星細胞が新しい筋核を供給する必要があるが、間葉系前駆細胞欠損マウスでは、代償性筋肥大刺激に応じた筋衛星細胞の増殖が効率的に起こらず、筋肥大も起こらなかった。すなわち、運動による筋肥大に間葉系前駆細胞が必要であることが明らかとなった。 間葉系前駆細胞が運動刺激に応答して筋肥大を誘導するメカニズムを精査するため、RNAseqによって代償性筋肥大モデルにおける間葉系前駆細胞の遺伝子発現解析を行った。その結果、代償性筋肥大刺激時に間葉系前駆細胞でYapシグナル関連遺伝子の発現が増加することが明らかとなった。Yapは機械刺激のセンサー分子として知られており、機械刺激に応答してTazと複合体を形成し核内に移動し標的遺伝子の発現を活性化する。そこで、代償性筋肥大モデルにおいてYapの局在を精査した結果、代償性筋肥大刺激に応じて、間葉系前駆細胞でYapが核内に移行していることが明らかとなった。運動時の間葉系前駆細胞におけるYapシグナルの意義を調べるため、間葉系前駆細胞特異的にYap/Tazを欠損するマウスを作製した。間葉系前駆細胞特異的Yap/Taz欠損マウスでは、代償性筋肥大刺激に応じた筋衛星細胞の増殖や筋肥大が生じず、間葉系前駆細胞による筋肥大の誘導はYap/Tazシグナルに依存していることが明らかとなった。 次に、Yap/Tazシグナルの下流標的の解析を進め、Thbs1が間葉系前駆細胞においてYap/Tazシグナル依存的に誘導されること、Thbs1が筋衛星細胞表面に発現するCD47を刺激し、その増殖とそれに続く筋肥大を促進することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの成果において、間葉系前駆細胞が運動による筋の肥大適応に必須であることを明らかにした。また、その作用メカニズムとして、Yap/Taz-Thbs1-CD47経路を介した、間葉系前駆細胞-筋衛星細胞間のシグナル中継の実体を解明した。運動による筋の適応では、筋衛星細胞だけでなく免疫系細胞も重要になってくる。運動刺激時の間葉系前駆細胞の遺伝子発現解析の結果から、免疫系の制御に関わる遺伝子の発現が増加することを認めている。よって、今後、運動時に間葉系前駆細胞が免疫系細胞の制御に果たす役割を調べ、間葉系前駆細胞が司る運動適応機構の全容把握を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)所属機関の異動等があり、予算の使用状況に影響したため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)予定していた遺伝子発現解析などに係る経費を次年度研究費(物品費)と合わせて使用する予定である。
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