研究課題/領域番号 |
21K19754
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
豊田 雅士 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (50392486)
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研究分担者 |
松田 明生 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 免疫アレルギー・感染研究部, 室長 (10359705) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 血管 / 糖鎖 / 不定愁訴 / 炎症 / 加齢 |
研究実績の概要 |
不定愁訴(明らかな身体的原因が認められないにも関わらず、頭痛・動悸・疲労感など多岐にわたる自覚症状をもつ状態)がどのような機序で起こるかは未だ不明である。近年SARS-CoV-2感染に伴う後遺症(Long COVID)やワクチン接種に伴う後遺症に不定愁訴に類似した症状が認められる実態が明らかになりつつある。このことは、後遺症のさまざまな症状がウイルス感染等による血管・組織へのダメージが起因となって起こっていることを示唆しており、不定愁訴の分子機序解明への糸口となると考えられる。 そこで本課題では、不定愁訴は血管機能の一時的もしくは慢性的な低下状態によって引き起こされていると考え、その分子機序を探求している。本年度は、in vivoでは組織機能に影響する血管ダメージとはどういった変化がもたらされているかを、ウイルス感染などの重症化リスクの1つである「加齢」を指標として調べた。その結果、血管構造の乱れとともに、その周辺の細胞構造の変化が認められた。血管の変化が周辺細胞の機能へ影響を及ぼしていることが示唆され、その詳細を明らかにすべく検討を進めている。 また本課題では、血管ダメージによって不定愁訴が起こることを前提として、創薬に向けた検討を行っている。血管炎を抑制するスクリーニングによって得られた複数の物質による血管ダメージが引き起こす炎症抑制効果の濃度依存性や、内皮細胞の炎症による細胞内代謝変化が抑制されていることが確認できた。細胞レベルでの効果をさらに個体レベルで検証すべく準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不定愁訴の要因となる血管構造は、組織がその機能を発揮するために構築された血管網として発生期に完成すると考えられる。しかしそれがどのように維持されているか明らかではない。血管ダメージの基盤となる血管網の構造変化を、加齢という時間軸で追跡した。その結果、心臓組織内血管網の数・密度には顕著な変化は認められなかった一方で、走行性の乱れが多く認められた。また血管内皮細胞間の接着構造にも変化を認め、その影響で近傍の心筋細胞の構造変化にも及んでいることが確認できた。筋細胞の構造の乱れは、拍動伝搬に影響を与えることにつながると考えられることから、血管-心筋細胞間で起こる相互作用に変化をもたらす分子の同定とその機序の解明を進めている。 炎症はさまざまな病態の温床となっていることが知られている。不定愁訴もその一環として起こると考えられる。全身をめぐる血管の最内側を構成する内皮細胞の機能を改善することによって、炎症を抑制しその機序を解明することで、症状の改善・治療の道筋が開かれる。本川崎病(小児の原因不明な血管炎症候群)研究で見出された血管炎抑制効果を示す複数の候補物質について、本課題では血管内皮細胞に対する炎症性サイトカインの抑制効果の比較および細胞内代謝機能の改善効果の分子機序の解明を進めている。その結果、血管内皮機能の代謝を改選かつ炎症性サイトカインを抑制する候補物質として2-3種を絞り込むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
加齢による血管ダメージは、血管構造の変化、さらにその周辺領域の細胞間構造に影響を与えていることが示唆された。こうした構造変化が各細胞での機能にどのような影響を及ぼしているかを検証していく。血管内皮細胞間、内皮細胞-心筋細胞間に関わる接着分子の発現・局在・糖鎖修飾を調べることで、構造変化がもたらす機能変化を探っていく。さらに 不定愁訴の要因はさまざまあると考えられることから、加齢以外(炎症、糖尿病などの病態)による血管ダメージで、同様な変化が見られるかを検証している。 In vitroで血管炎症抑制効果を示した候補物質に対して、in vivoにおける効果を検証していく。炎症モデルマウスを使い、血管ダメージからの回復効果を検証するとともに、適切な投与量・投与時期などについて検討し、創薬としての可能性を探っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症流行等世界的状況による物流の遅延に伴い、予定した物品の年度内納品が難しい研究材料が生じたため。
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