研究課題
不定愁訴(明らかな身体的原因が認められないにも関わらず、頭痛・動悸・疲労感など多岐にわたる自覚症状を持つ状態)がどのような機序でおこるかは未だ不明である。一方新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、血管炎や血栓症を伴って多臓器不全に至り重症化するが、回復後の後遺症で不定愁訴と重なる症状を呈する実態が明らかになりつつある。これは、血管の状態が病態重症化・後遺症に関与していることを示唆している。そこで本研究では、血管の「ダメージ」が一時的な組織機能低下を誘引し、不定愁訴として現れるとの仮説を立て、不定愁訴の分子機序を探った。まず機能低下を及ぼす「血管のダメージ」とは何を意味するかを個体組織で解析を行った。不定愁訴は中高齢期からよくみられ、またCOVID-19後遺症は重症ほど見られることなどから、加齢に伴う組織内血管の構造および機能に着目し、本課題では心臓組織を対象として検討した。その結果、組織内微小血管機能の低下が認められ、さらに血管から栄養・酸素等の補給を受けている心筋細胞の機能にも及んでいることが示唆された。この現象をさらに確認するため、薬剤誘導による炎症モデルマウスで検討するとほぼ同様な結果が得られた。これは、微小環境下における加齢や外的環境による炎症を起点として、血管機能の低下が起き、心機能の低下へと波及していることが考えられた。心機能の維持に果たす血管機能の制御機序についてさらなる研究を進めている。不定愁訴/COVID-19後遺症は、多様な症状を示しその治療は対処療法となり、長期にわたる治療が余儀なくされ、社会生活に大きな影響を及ぼしている。本研究によって、その要因が組織内微小血管機能の低下にあることが示唆された。今後機能低下がどのように身体的症状とつながるかを分子レベルで解明していくことで、不定愁訴の診断・有効な治療法開発へとつながることが期待される。
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