研究課題/領域番号 |
21K19755
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
舘野 高 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00314401)
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研究分担者 |
村上 修一 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主幹研究員 (70359420)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 超音波トランスデューサ |
研究実績の概要 |
本研究課題では,機械的振動で効率的に中枢神経系を低侵襲的に刺激し,体内臓器や末梢系効果器に神経信号を送信する新技術の開発を目指している.その実現に向けて,脳の局所領域に対し,弱強度の超音波を放射して低侵襲的に神経活動を誘起する小型のデバイスを製作し,その実験系,および,実験プロトコルを開発することを目的としている. 本年度は,計画期間の2年目であり,年度計画にしたがって,次の小課題を実施した. (課題1) 超音波の脳刺激によって聴覚末梢系の神経活動を誘発せずに,中枢神経系のみを活動させる刺激条件について広範囲に条件の探索を行った.具体的には,市販のトランスデューサを利用して刺激条件を変化させて超音波を齧歯類動物に印加して聴覚の末梢系と中枢系の神経活動を同時に記録した.その結果,末梢系の活動を誘発せずに,中枢神経系のみを効果的に活動させる超音波条件を明らかした.また,末梢系活動を誘発する条件では,その物理的な誘発の機序について幾つかの仮説を立て実験で検証した.(課題2) 微細加工技術によって試作した微小トランスデューサの電気的および機械的な振動特性を計測し,脳活動を誘発する条件を満たしているかを確認した.その結果,当初の想定よりも刺激強度が弱いことが判明した.(課題3) 小型ダイアフラム上に脳の試料を置き,その底部から超音波を印加する実験を行った.その結果,本試作デバイスでは,脳活動が十分に誘起できないことが判明した.このため,次年度にダイアフラムデバイスの再試作が必要である.(課題4) 薬剤を用いて聴覚末梢系由来の音情報を阻害する難聴モデルを作成する実験条件を検討した.また,動物実験によって,市販のトランスデューサによる超音波刺激の印加が聴覚中枢系の神経活動を誘起できることを電気生理学実験によって確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,研究計画に沿って4つの小課題を実施した.課題1は当初の目的をほぼ達成した.しかし,課題2では,微細加工技術によって試作した微小トランスデューサの電気的および機械的な振動特性が,数値計算の予測値よりも小さな強度を与える結果となり,再設計および再試作の実施が必要であることが判明した.課題3と4では,試作したトランスデューサを利用して実験動物へ脳刺激を行う予定であった.しかし,上記の理由で試作デバイスの特性が十分ではなく,これらの2課題は,来年度に再度実施することにする.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得た結果を踏まえ,計画の最終年度となる次年度は,以下の3項目の小課題実施を計画している. (課題1) 市販のトランスデューサを利用した超音波の脳刺激によって聴覚末梢系の神経活動を誘発せずに,中枢神経系のみを活動させる刺激条件を用いて,健常および難聴モデル動物から誘発応答が得られるかを確認する.超音波の刺激条件を変化させて,聴覚の末梢系と中枢系の神経活動を同時に記録し,中枢刺激応答が効果的に得られることを電気生理学実験によって確認する. (課題2) 今年度,応答特性が不十分であった微小トランスデューサについて,次年度に微細加工技術を用いて再試作し,電気的および機械的な振動特性を計測して脳活動を誘発する刺激条件を満たしているかを評価する. (課題3) 再試作した小型ダイアフラム上に脳試料を置き,その底部から超音波を印加する再実験を行い,脳活動誘発の有無を確認する. 上記の課題を実施の上,得られた結果をまとめて外部発表すると共に,最終的な研究内容のまとめとして国際誌へ論文を投稿する準備を行う.
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